線維筋痛症は、体の広範囲で原因不明の痛みが起きる病気です。見た目には、何ともないじゃないかと、誤解されがちなのですが、当の本人は、耐え難い痛みを何年も抱えながら生活するので、周囲の理解も必要です、線維筋痛症について。9月4日(月)の松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。
★痛みの度合いは人それぞれ
線維は医学用語で、筋肉のように繊維状のものを指します。つまり線維の筋肉が痛む病気で、線維筋痛症といいます。その症状は、全身の筋肉や関節に近い部分に、慢性の痛みを生じるというものです。痛みの度合いは人それぞれですが、重症の人は、全体の2~3%。ひどい症状は例えば「シャワーを浴びると痛い」「睡眠中、痛みで目が覚める」。「痛みで立っているだけでも辛く、数時間起きては横にならないといけない」など。
★痛み以外の症状も
さらに辛いのは、痛みの症状だけではありません。痛みに加え、「しびれ」「手足のこわばり」「慢性的な疲労感」「胃腸障害」「うつ状態」などさまざまな症状が出ます。数年たっても改善しない人が少なくありません。なかには、20年以上も痛みが続く患者さんもいます患者さんの8~9割が女性で、特に30代後半から50代で最も多く発症します。また患者さんの数は、潜在患者も含めて、200万人以上とも言われます。
★痛み難民
中には、いわば「痛み難民」とも言える人もいます。線維筋痛症は、他の人から見た目にはわからない病気で、その認知度も低い。というのも、線維筋痛症と診断する、決定的な検査方法がありません。そのため関節リウマチや自律神経失調症や更年期障害などと診断されることもあります。人によって症状が異なるケースが多いことも、診断を余計に難しくしています。多くの診療科を回ったあげく「なんともないですよ」と言われてしまうこともあり、診断まで10年かかったケースもあるといいます。潜在患者の中には、なんとか痛みなどの症状をごまかしている人もいると思われます。
★診断基準は?
線維筋痛症の診断は、まず、症状の似ている病気を除外することからです。ポイントは、「損損や炎症がないのに痛む」「体の広範囲の痛みが3か月以上続いている」「全身に18箇所ある圧痛点を、4kgの力で押すと、11箇所以上痛む」これは1990年に発表されたアメリカリウマチ学会の診断基準です。そして、痛み以外の症状も重要です。アメリカリウマチ学会の診断基準に加え、2010年に新しくできた診断基準では、問診で疲労感などの身体症状や集中力の低下などの精神症状を調べて点数をつけます。先ほどの圧痛点の検査と合わせて、総合的に診断します。
★脳の血流が関係
原因について現時点で特定はできていませんが、痛みが起きる仕組みや痛みを和らげる治療法は、少しずつ分かってきています。最近ではSPECT(スペクト)という、CTではわからない、血の流れる量などの情報が得られる画像検査で、脳の血のめぐりが関係することもわかってきました。
★痛みの仕組みは?
まず、シャワーを浴びるだけで感じるような、痛みの仕組みでわかっていることですが、痛みを伝える神経伝達経路に、車のアクセルとブレーキが壊れたような異常が起きています。脳の神経細胞に炎症が生じていて、痛みを伝える神経が過剰に反応します。いわば、アクセルを踏み込んだ状態が続いている状況です。一方、痛みを抑える物質が本来出ていますが、それが出なくなっているケースもあります。こちらはいわば、痛みのブレーキが効かない状態です。
★きっかけは、ショックな出来事
では痛みに対し、どうしてアクセル・ブレーキが暴走状態になってしまうのか。きっかけは、心身のストレスが大きく関わっているようです。病気や事故、手術や妊娠、死別や離別の喪失感など、心身にかかる大きなストレスが引き金となって、痛みのコントロールができなくなると考えられています。
★保険適用の2つの薬
そうしたことから、痛みを和らげるのに効果的とされる治療は、大きく3つあります。薬が基本で、補足的に、精神療法と運動療法を行います。まず薬ですが、誰にでも効く特効薬というのは、まだありません。しかし、2012年に初めてリリカという商品名の薬が、「痛み」を和らげる薬として登場。そして15年には、サインバルタという薬も認可され、2つ保険適用の薬があります。それぞれ、痛みのアクセルを戻したり、ブレーキ機能を高める薬です。これらの薬で症状が消えるとまではいきませんが、痛みの6~7割は軽減されます。
★精神療法と運動療法も
精神療法はカウンセリングによって患者さんの考え方のクセを修正する認知行動療法です。痛みがあるから何もしようとしないという悲観的な考え方を変え、行動に反映させます。そうして考え方を変え、行動に移すことができれば、運動療法も行っていきます。有酸素運動酸素を取り込む運動は、身体の痛みを軽減するとともに予防にもなります。1日に5分でも10分でも、休み休みでも、ウォーキングを行うのが良いでしょう。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫