バセドウ病は、のど仏の下にある甲状腺に関係する病気の一つ。甲状腺の病気の患者さんは、およそ5百万人、これは糖尿病に匹敵する数字です。その中でバセドウ病は、近年増えていて、甲状腺の病気の中で、2割を占めます。その症状や新しい手術について。10月9日(月)の松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。
★バセドウ病とは??
そもそも、バセドウという、変わった病名ですが、これは1840年にこの病気を発見した、ドイツ人の医師(バセドウ伯)から来た名前です。患者の男女比は1対4で女性に多く、15歳くらいの思春期からかかりやすくなります。そして30歳代にピークを迎え、50歳代になると減っていきます。甲状腺はのど仏の下にあり、蝶が羽を広げたような形をしていて、重要な役割があります。それは、甲状腺ホルモンを分泌する、役割です。甲状腺ホルモンは、身体の新陳代謝を活発にする、いわば体を元気にするものです。そのホルモンの分泌が、必要以上に過剰になってしまう病気が、バセドウ病です。
★全力疾走で色んな辛い症状
この甲状腺ホルモンが、過剰になるのも、問題です。そうなってしまう原因は、わかっていない部分もあるのですが、現時点では、自己免疫システムに異常があるからだ、と考えられています。免疫は、体内に入った細菌などの異物をやっつけるために働きますが、それが自分のからだの組織や細胞を攻撃してしまう、それが、甲状腺で起きています。ホルモンが活発になることで、身体が常に全力疾走をしている状態になります。そうなると、全身のいろんなところで、様々な症状が出てしまいます。甲状腺がある首の腫れ、これは、甲状腺に問題があることが比較的わかりやすい症状です。一方で、疲れやすい、イライラする、手の震え、汗かき、脚の力が抜ける、髪の毛が抜ける。食欲があってよく食べるけど、食べてもやせる・・・どうも変だなという症状が起きます。
★一番多い訴え「動悸」
中でも、患者さんの訴えが一番多いのが、心臓がドキドキする「動悸」です。疲れやすく、坂を上るのが苦しい・・・そうした症状から、心臓の病気と勘違いしやすい。実際高血圧のこともあるので注意が必要ですが、バセドウ病か心臓の病気かを見分けるのには、血圧をみればわかります。バセドウ病の場合、血圧は上が高くなり、下が低くなります。つまり、上と下の差が大きくなります。
★特徴的な「眼球突出」
そして、パセドウ病の特徴的なのは、眼球突出です。軽度を含めると、5割くらいの患者さんに認められる症状です。眼球の、周りの筋肉や脂肪組織に、炎症が起こり、膨らむので、眼球が押し出されて、目が飛びだしたように見えます。そしてまぶたの動きもスムーズでなくなり、眼球とまぶたの動きがバラバラになる。例えば下を向いたとき、まぶたが一緒に下がらないので、まぶたの下に白目が出てしまう。その他、目が赤く晴れてきたり、角膜に傷がついたりという症状も起こりやすくなるので、目の病気と勘違いする人もいます。そういったいくつかの症状が重なって現れる場合、診断を受け、きちんと治療をしましょう。
★治療その①「薬」は効くけど・・・
治療には3つの選択肢があります。まず基本的な治療は甲状腺ホルモンが作られるのを抑える薬で、全ての患者さんに効きます。きちんと服用すれば、2~3か月と比較的早く効果は出ますが、油断は禁物。効果が出たとしても、途中で薬を飲むのをやめてしまうと、6割が再発します。少なくとも、1年~2年は薬の服用が必要です。1~2年ならなんとか続けられる、と思うかもしれませんが、副作用を起こす人が2割ほどいて、多いのは、かゆみ、時として高熱がでます。こうした副作用は最初の3か月以内に起き、副作用が強い時には、次の治療になります。
★治療その②「放射性カプセル」
2つ目は、放射性ヨード内療法というもので、簡単に言うと身体の中で行う放射線療法です。どんなものかというと、ヨウ素131という放射性物質を含む放射性カプセルを飲みます。血液の中に吸収させた、ヨウ素131は甲状腺に集まり、微量の放射線を出し続けます。それが、甲状腺の細胞を破壊し、機能を減少させるのです。ただし子供は放射性物質に対する感受性が高いので、カプセルを服用してからおよそ1か月間は、子供を抱いたり、人ごみに出かけるのを控える必要があります。放射性物質の要素はおよそ1週間で半減、半年で体内から外に出るので、服用から1年以上経てば、妊娠も可能です。
★治療その③「手術」
放射線を敬遠する人はいますが、近年、この治療法を選択する患者さんは増えています。そうした、放射線治療を望まない人、薬の副作用が強い人や早く治したい人は、3つ目の治療、「手術療法」となります。甲状腺を切除して、ホルモンを分泌できないようにします。
効果は早く確実ですが、この場合の難点は、手術の痕が残ることです。一般の手術は首元に横に10センチ程度切り開くので、その傷痕が残ります。・およそ1%の患者さんが手術を受けていますが、患者さんが手術に踏み切れないのは、そのためです。
★傷痕が小さい新手術も登場
ただ、去年の4月より、内視鏡を使った傷痕が小さい手術が登場しました。保険適用で、内視鏡下甲状腺切除術と言います。内視鏡手術では、首の左右におよそ5ミリの傷と鎖骨下に2センチ程度の傷だけです。鎖骨下は服を着ると見えませんし、首の左右の傷も消えて見えなくなります。さらに内視鏡手術をした後、2日程で多いんが可能です。体に負担が少ないということで、今後手術を選ぶ人が増えるかもしれません。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫