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Channel: 放送後記 – TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~
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ノーベル賞受賞テーマ「体内時計」解明進む病気との関係

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体内時計は、今月はじめに発表されたノーベル賞生理学・医学賞の受賞テーマです。現代の医療に大きな影響を与えたテーマで、アメリカの3人が受賞しました。今では体内時計と病気の関係、さらには体内時計を活かした治療法も始まっています。どんなものか。10月16日(月)の松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。

★体内時計って?

「体内時計」という言葉は一般的になっていて、その存在は、なんとなく知っています。人間の身体では、ほぼ1日周期のリズムが刻まれていて、そのリズムにあわせて、活動や睡眠といった目に見える変化や、身体の中では血圧や体温の変化も起きています。そうした体内時計の存在は、かなり早い段階から、指摘されていました。

★研究のきっかけと今

一番最初のきっかけは、1729年のフランス。オジギソウを光の当たらない場所に置きっぱなしにしても、昼夜のリズムに合わせて、葉を開閉させていることに気づいた科学者が、生物には太陽の光以外にも一日のリズムを知る仕組みがあるのではと推測。その後、1970年代初めには、ショウジョウバエの実験で、体内時計に関係する遺伝子が存在することがわかりました。そして、その遺伝子が何なのか、特定したのが、今回ノーベル賞を受賞した3人です。3人の研究は、体内時計のしくみを知る上で重要な突破口となり、その後、細胞の解析レベルがさらに上がり、より詳しい仕組みが日々明らかになっています。

★時計遺伝子

ちなみに、体内時計に関係する遺伝子を、「時計遺伝子」と言います。時計遺伝子は細胞の中にあり、ヒトの臓器のほとんどにあります。つまり1つではない!ヒトには2万数千個の遺伝子がありますが、内「20個」の時計遺伝子が特定されています。ずいぶんあるんですね。そんな時計遺伝子の特定で、体内時計の存在が裏付けられるわけですが。いまでは、24時間ごとの、身体の活動や起きやすい病気が、細かくわかってきています。これは知っているのといないのでは、健康に大きな違いが出てきます。

★午前9時~10時に注意したいこと

まず、朝、目覚めた後、午前9〜10時頃に多いのが「心筋梗塞や脳梗塞」です。これはWHOも1970年代に、およそ9千人の調査を実施し、裏付けられています。この時間は、休息から活動へと一気に切り替わる時間で、血圧や脈拍が増えます。血圧を上げるため、血管は締まり、細くなり、血液が流れにくくなります。一方、心臓や脳は多くの酸素を必要としています。つまり、需要は高まるのに、供給が遅れる、悪い状態になってしまいます。また、寝ている間は汗をかくので血液がドロドロになっているのも問題です。これらは生活自体のリズムですが、さらにもう1つ時計遺伝子が影響します。朝は、血液をサラサラにするのを妨げる時計遺伝子があります。これは不思議なんですが、人類の歴史では、朝は活動を始めるため、切り傷などが多く、そのため、朝は出血してもすぐに血液が止まる時計遺伝子になった、と考えられています。これも影響し、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まるといわれています。

★時間によって起きやすい症状

こうした具合に、時計遺伝子の影響で、時間帯によって、病気のリスクが高まります。早朝、午前4時〜5時は、群発頭痛や、偏頭痛が始まる時間。昼、12時〜13時は、胃潰瘍の出血が多くなり、15時〜17時は、活動の疲れから、緊張性の頭痛が多く見られます。また夕方17時〜18時は、呼吸が最もしやすく、肺や心臓の働きがよくなります。スポーツをするのには、良い時間帯なのですが、脈拍や血圧も増える時間帯。ですから、先ほどの朝に次いで、脳卒中や心筋梗塞の発症が多い時間帯です。また痛みを感じやすい時間帯で、変形性関節症、歯や筋肉、腰などの痛みが強く出ます。これらはほんの一部で、体内時計と連携したリスクは、たくさん見つかっています。

★時間治療

この体内時計を利用して、治療に応用する「時間治療」の動きも広がっています。横浜市立大学附属病院消化器・肝移殖外科では、がん治療に体内時計を利用しています。ある男性の肝臓には、直径1・5センチほどのガンが2つありました。通常の手術や抗がん剤治療では、治療効果が得られない状況。そこで午前4時前後に、最も細胞分裂が減る、という体内時計のリズムに着目。がんの勢いも衰えたその時間に、抗がん剤の量がピークになるように、薬を投与する。すると、ガンをやっつけることができた、という例があります。ちなみに今はまだ肝臓がんにのみ利用されている治療です。

★広がりを期待

そこは、夜間に十分な医療スタッフを充てるのが困難といった理由もあります。抗がん剤は毒性が強く、万が一は抗がん剤が体の外にもれてしまうと、触れた皮膚が壊死を起こすなどするため、取り扱いには細心の注意が必要となります。点滴の煩雑さから夜間看護師の協力は得にくいと思われています。医療の進歩に従って、医療体制の変化も期待したいところですが・・・一方で、患者さんの飲み薬については、応用が進んでいます。体の、各臓器が薬を受け入れやすい時間と、その薬が一番効果を出す時間を考慮して、朝飲むのか、夕食後に飲むのか、寝る前に飲むのか、使い分けの研究が進んでいます。ですので、薬は、飲み忘れたりしないで、医師の指導通りに飲むのが大切です。

日本全国8時です(松井宏夫)

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫

 

松井宏夫の日本全国8時です(リンクは1週間のみ有効)http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20171016080000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)


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