忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)8時からは、話題のアンテナ「日本全国8時です」。全国ネットで、日替わりゲストとともに放送。毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「賢くなれる雑学コラム」!

解説は東大名誉教授の月尾嘉男
10月26日(木)は「天災大国日本」
★世界で相次ぐ自然災害
台風21号は日本列島の東側をかすめて縦断し、各地に大量の雨を降らせて温帯低気圧になりました。昔の台風に比べると、防災も進み被害は減っているとはいいますが、それでも10名近くの方が亡くなられ、残念なことでした。
今年は、東北地方の大雪に始まり、7月は福岡と大分で集中豪雨があり、8月は台風5号が停滞、9月の台風18号は日本列島を縦断、そして今回の台風21号の通過という状態で、気象災害が集中しています。
これは日本だけではなく、アメリカでは8月から9月にかけて、ハリケーン・ハービーとイルマが上陸し、ハリケーン・マリアが、プエルトリコに襲来、10月にはカリフォルニア州の山火事というように、アメリカでも、自然災害が続発しています。
★統計的にも増えている!
ドイツのミュンヘンに本社がある、「ミュンヘン再保険」という会社が発表した統計があります。地震、津波、火山爆発など地質学的災害、台風、暴風などの気象災害、洪水や地滑りなどの災害、干魃、山火事など異常気象による災害の、4種類を合計した自然災害は1980年代には1年平均で290件、90年代には430件、2000年代には475件、2010年代には610件と着実に増えています。
★経済的な被害も増加傾向
当然ですが、これは経済的な被害も発生させています。同じく「ミュンヘン再保険」会社の推定によると、1980年代は、1年平均で4兆4000億円、90年代は9兆3000億円、2000年代になると11兆6000億円、そして、2010年代には13兆9000億円と増加しています。
自然災害ですから年毎に増減がありますが、およそ30年という短期間で、3倍以上に増加しているのは偶然ではなく、他の要因もありますが、やはり地球温暖化の影響も大きいと思います。
★日本は危険?
国連大学が「ワールド・リスク・レポート」という災害についての報告書を毎年発行し、世界の171カ国について、各国の自然災害に遭遇する危険度を評価して順位を付けています。最新の2016年版では、日本は危険な方から17番目になっているのです。
日本より上位の国は1位のバヌアツ、2位のトンガ、6位のソロモン諸島、13位のモーリシャス、16位のフィジーなど、小さな島国や、3位のフィリピン、4位のグアテマラ、5位のバングラディシュ、8位のコスタリカなど発展途上国であり、先進諸国で最初に登場するのが日本なのです。
OECDに加盟している先進諸国では、地震と津波が多いチリが22位、国土の25%が海面下というオランダが49位に入っていますが、それ以外は76位にギリシャ、95位にメキシコ、113位に韓国、121位にオーストラリア、127位にアメリカ、131位にイギリス、147位にドイツ、152位にフランス、162位にスウェーデンという状態です。
★災害は国の発展の敵
日本の17位という順位は人命の損失は当然として、経済的損失でも巨額であることを意味し、国家にとって真剣に対処すべき課題です。自然災害による経済的損失を計算してみると、1995年の阪神淡路大震災は9兆6000億円でGDPの1.9%です。
また、東日本大震災は16兆9000億円でGDPの3.5%、これとは別に、福島第一原子力発電所の被害は最低でも10兆円とされ、合わせると、東日本大震災全体では、GDPの5.6%の被害になります。
参考までに2005年にアメリカ東部を襲ったハリケーン・カトリーナの被害額は13兆円ですが、それでもGDPの0.6%でしかありませんし、今回のカリフォルニアの山火事の被害額は1200億円と推定されていますが、GDPの0.006%ですから、大変な災害のようですが、アメリカ経済の視点からは影響は少ないのです。
一方、2011年にタイで、現地の日本企業も被害を受けた大洪水がありましたが、この被害額は、およそ3・5兆円と言われ、タイのGDPの12%にもなり、国の発展を停滞させる原因になりました。
★発展へのリスクを数値化すると
このような巨額の経済損失は、他の社会発展のための投資ができないなど、国家の発展を大きく阻害します。国連の防災事務局が発表している「世界防災白書」がありますが、その2015年版に、自然災害の被害額が国の発展に影響する深刻度を相対的に表した指標を発表しています。
ドイツのように災害に強く経済規模が大きい国は40点、アメリカは、経済規模はドイツ以上ですが、台風や山火事の被害が多いので、ドイツより影響が大きいとして、56点になっています。
日本は東日本大震災の被害額でもGDPの3.5%ですから、基礎体力はありますが、先ほどご紹介した脆弱性が17位ということが影響して、災害被害が国の発展に影響する深刻度は、アメリカ以上の58点です。
★日本に必要な防災とは
現在の日本の政府は、国土強靭化という目標を掲げて巨大な防潮堤の建造、河川の堤防を嵩上げするような土木事業を推進していますが、台風や洪水のエネルギーは人工物が耐えられるような規模ではないことは、東日本大震災の時に崩壊した防潮堤が証明しています。
中国の古典に「三十六計逃げるに如かず」=いろいろ作戦はあっても逃げるのが一番、という言葉がありますが、まさに、安全な場所に逃げて、生活することを検討するべきだと思います。
かつて人口が増え、産業が発展する時代には安全ではない場所にも、住宅や工場が建設されましたが、人口が減少し、産業はオフィスの内部で可能な情報産業が中心になった現在、大きな方向転換をすべきだと思います。