ひざの痛みの原因で、一番多い「変形性膝関節症」。リスナーから手術に踏み切るべきかどうか、おたよりをもらいました。変形性ひざ関節症について、その治療法を中心に。3月26 日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。
★おたよりの文面
「私の母は81歳で、変形性ひざ関節症です。現在は、右の膝軟骨がすり減り、ほぼない状態です。最近は、家事や畑仕事など、日常生活はなんとかこなしていますが、傷みが強くなり、30分以上歩くことは辛くなっているようです。担当医からは、痛み止めの処方以外、すでに治療法はない。筋力のある今のうちに、人工関節手術をすべき、と勧められました。手術を受けても、リハビリをすれば、これまでと同じように、畑仕事などができる日常が取り戻せるのでしょうか?」
お便りによれば、このお母様は、軟骨が磨り減っていて、ひざの痛みの原因で一番多い「変形性膝関節症」だということです。私は医師ではなく医療記者ですので、医師法の規定で、診断、アドバイスはできません。お医者さんに相談したり、別の医師にセカンドオピニオンを求めるのが一番だと思いますが、お医者さんに質問する際に、ポイントとなるところがいくつかあると思いますので、今朝はその参考になるよう、変形性ひざ関節症について、その治療法を中心にお伝えします。
★変形性ひざ関節症とは
まず、変形性ひざ関節症とはどういうものなのか。ひざは、太ももからの骨と、スネからの骨が組み合っている部分で、その組み合っている部分には、滑らかに動けるように、軟骨が挟まれています。しかし長年使っていることによって、軟骨は磨り減ってしまいます。直接、骨と骨がぶつかり炎症を起こし、神経を刺激して痛む、これが変形性ひざ関節症。厚労省調べでは、自覚症状がある人は、1000万人とも言われる病気です。
★立つ・歩く・昇降、負担の差
主な症状は、立ち上がろうとするとひざが痛む、歩き出すとひざが痛む、手すりがないと痛くて階段を降りられない、ひざが腫れる、じっとしていてもひざが痛む。ひざは、立っているだけで、片ひざに体重の1・1倍、平らなところを歩くと2・6倍、階段の上り下りとなると、3・5倍という大きな負担がかかり、痛みにつながります
★原因は?
軟骨がすり減る原因は、加齢が最大の原因で、他には、肥満、などとなっています。また、仕事柄、屈伸が多い農作業や宅配など、職業による負担があるもの、また日本人に多いO脚も、ひざ関節の内側に体重がかかりすり減るので原因となっています。
★手術を検討すべき段階は?
質問メールをいただいた方は、すでに手術を勧められているようですが、一般に、変形性ひざ関節症の治療は、まず、運動、器具、薬などの保存療法です。
変形性ひざ関節症は安静にするほど悪化してしまうとも言われ、運動療法が基本です。運動は、軽度でも重度でも同じなのですが、膝を支える筋肉を鍛えます。
器具というのは、筋肉に代わって膝関節を支えるためのサポーターです。
そして、その人の症状に合わせた痛み止めの薬などで、様子をみますが、「半年間」、状態改善の様子が無い場合は、骨にまで影響が出ている重症です。
ですので、運動や薬でも改善されず、年中痛みに悩まされる場合、手術の検討となります。まずは、運動、器具、薬ではダメなのか、そのあたり、お医者さんと話してみましょう。
★手術をするとどうなる?
手術は、一番軽いものから、関節鏡手術、骨切り手術、人工関節置換手術、となります。質問の方は、すでに人工関節を勧められているということなので、重い症状です。
人工関節に置き換える手術は、歯に例えると、入れ歯を入れているようなものです。関節のすり減った上下の骨の表面を、厚さ1センチ程度削ります。そこに、金属とプラスチックでできた人工関節をはめ込みます。
50年以上実施されている手術で、素材もよくなっていて、なめらかさや耐久性に優れたものになっていて、一度はめ込めば、30年は持ちます。関節の一部を人工関節に置き換えるので、それによって痛みは無くなります。
手術後は1~2週間程度で、歩けるようになるのが一般的です。入院期間は1か月前後必要ですが、その後は、普通に生活ができます。歩いたり、旅行に行ったり、軽いゴルフ、そして農作業などもできるようになります。
★筋肉があるタイミングで。
ただし、人工関節の手術後、日常生活がどれくらい取り戻せるかは、筋力と関係があります。手術後、いつごろ、普通の生活に戻れるか、どの程度に戻るのか?筋力との関係を含めて、ここをしっかり、主治医に聞いておくことが大切です。
★手術のデメリットは?
もう1つ、人工関節については、デメリットもあることを知っておくことも重要です。手術の後は、ひざが120度程度までしか曲がらないため、正座はできません。さらに、手術後10~15年たつと、骨と人工関節の間にゆるみができ、5~10%程の確率で、入れ替える必要が出てきます。また、ごくまれに感染症や、合併症で、体の表面にある静脈に血栓ができて炎症が起きる血栓性静脈炎、起こす可能性もあります。このデメリットについても、医師からしっかり説明を聞いておいたほうがいいでしょう。
★部分的な手術も
もう1つポイントとなるのは、人工関節の手術は、部分的に行うケースも出てきています。ひざ関節が、外側と内側のどちらか片側だけ変形している場合、検討される手術です。部分的に人工関節に置き換えるので、全体的な人工関節よりも、手術の傷跡は小さいです。また、ひざを安定させる前十字靭帯を切らないので、手術後の違和感は少なく済みます。
なお、ひざ全てを置き換える人工関節は、耐用年数が30年ありますが、それと比べると、こちらの一部だけを人工関節にするものは、耐久性が劣る問題がありました。ここが悩みどころですが、徐々に技術が進み、一部だけを置き換えるものも、良くなっていることは確かですので、ご自身の年齢との兼ね合いでお医者さんに相談を。
★まとめ
まとめですが、ご質問された方が、お医者さんに相談する際のポイントは、
◎運動、器具、薬ではやっぱりダメなのか?
◎一部の人工関節だけではダメなのか?
◎全部、人工関節にする場合、どれくらいのリハビリで、どこまで戻るのか?
◎その場合のデメリットは何か?
このあたりを主治医に相談すると同時に、ひざの手術は大きいので、一つの病院だけでなく、手術数例の多い病院で、セカンドオピニオンをとることも、おすすめします。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫