■『グラディウス』の曲が好き過ぎて、ゲーセンで録音
『マイゲーム・マイライフ』のゲスト史上、最もゲームの愛し方が“変態的”な人がやってきたかもしれません。今回のゲストは、ゴスペラーズの酒井雄二さんでした。宇多丸さんとは早稲田大学の先輩・後輩でもあります。
酒井さんのゲームの原体験は、非常に独特。まずは、小学校の修学旅行の頃に遡ります。
酒井「忘れもしない小学校の修学旅行で、当時ゲームセンターは不良のたまり場だから厳禁だったんです。修学旅行で行った先の遊園地みたいなところで自由行動になったときに、俺一人でゲームセンターに行って、ボーっと画面に釘付けになってしまって」
宇多丸「え、やらないで? あ、お金ないから」
酒井「お金ない、お金ない」
宇多丸「で、画面見てるんですか。でも、遊園地ですよね?(笑)」
酒井「ほかのみんなが(乗り物に乗って)ワーイとか言ってるところで。で、集合時間を過ぎても、俺はずーっとその画面を見ていたので」
宇多丸「ははは、画面! こんな人いる?(笑)」
酒井「本っ当、キレイだったんだもん!」
宇多丸「もう、絵を見てるだけで幸せ」
酒井「幸せ。これがもう、当時の映像の、画像処理の最先端だったし、音声合成のシンセサイザーの最先端だったし。そういうところを見て、ああ、雑誌でしか見たことのないものがここにある! って」
宇多丸「そんなありがたがり方している人、あんまりいないと思う(笑)」
さらに酒井さんはその昔、『グラディウス』の音楽を愛するあまり、ある奇行に走っていたようです。
酒井「本当に僕、グラディウスの音楽が好きで。サンヨーのモノラルのカセットプレイヤーを借りて、友達に『この100円でいけるところまで行って』って言って」
宇多丸「あっ、音を録りたくて?」
酒井「そう。音を録りたくて」
宇多丸「ゲーセンですか? それ」
酒井「ゲーセンで。テーブル筐体の裏のところで、スピーカーの出口で録音して」
宇多丸「えー! そんな人いる!? 初めて聞いた! えー!」
酒井「最終面くらいまで行ってもらって、ありがとうありがとう本当にありがとう、って家で聴くっていう」
限られた音で作られているゲーム音楽を聴き込んで育ったことが、ゴスペラーズに活きていると酒井さんは続けます。
酒井「のちに僕が、大学に入ってアカペラのサークルに入って、5人のメンバーでこの音楽をどうやろうか、と」
宇多丸「あ、まさに」
酒井「それがガチガチに活きてきています。だってそれ、ファミコンでこうやってたもん。メロディはこれで、あとはこれとこれじゃない、とかいうチョイスは、ファミコン先生が教えてくれたことで」
ゲームセンターの画面に釘付けになり、カセットに録音をした、在りし日の少年の“変態性”に、ゴスペラーズの楽曲は支えられていたのです。
■今回のピックアップ・フレーズ
酒井「無理か無理じゃないかの当落線上を行きたくて、レベルを上げ過ぎないプレイをしているんです。ドラクエとかだったら、あと3~4レベルを上げれば勝てちゃうけど、そうしないで。この町で売ってるすべての武器防具を買わないで、今の手持ちの、ここまで旅してきたリアルな手持ちのお金で、これしか買えねえやっていうので挑んで、強えええええええ!」
宇多丸「まずいったん、強ええええええ! 絶対無理いいいいって(笑)」
酒井「無理だった! 無理だった! そして次の日……、という、そこが楽しい。勝てるの確定、とか全然面白くない」
文/朝井麻由美(ライター、コラムニスト)