ぜんそくは、子どもの病気と思う方も多いかもしれませんが、大人になっても突然発症することもあって、子どものぜんそく患者さんより成人の患者数の方が多いんです。こうした中、最近ではぜんそくの新たな治療法も出てきていて選択肢が広がっています。そこで、選択肢が広がっているぜんそくの治療について、5月28 日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。
★ぜんそくとは?
空気の通り道である気道に慢性的な炎症が起きて過敏な状態になっている病気です。わずかな刺激でも発作が起こりやすく、気道が狭くなって空気が通る時に摩擦が起こり、「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」と音がしたり、咳などの症状が出ます。それが夜遅くや、明け方に起きるのが特徴です。
ただ、大人のぜんそくは典型的な症状が現れないと気付きにくいのです。大人になってから初めて発症するケースでは、高齢者が風邪をきっかけにぜんそくを起こすことがよくあります。その場合、本人はかぜが長引いていると思っているうちに、突然激しくせきこんで呼吸困難になり、救急車で運ばれる、ということも珍しくありません。
また、高齢者のぜんそくでは、慢性の気管支炎などの合併もよく見られて、ほかにもさまざまな合併症が増えて、重症化することが多くなります。重いぜんそく発作を起こすと命に関わることもあります。厚生労働省の2014年の調査によりますと、ぜんそくの総患者数はおよそ120万人。20歳以上の成人患者が全体の半数以上を占めたということなんですが、国内では年間1550人の方がぜんそくで亡くなっています。日本アレルギー学会によりますと、亡くなる方の88・5%は65歳以上の高齢者ということです。
★基本的な治療は?
治療は、気管支を広げる薬と炎症を抑えるステロイド薬を吸入する対症療法が基本です。発作が多くなるにつれてステロイドの量を増やし、改善すれば減らします。ところが、これらの薬で症状をコントロールできない重症の患者さんもいらっしゃいます。全国の患者さんのうち、5~10%が重症とみられています。こうした中で、重症患者さんに向けた新たな治療方法も広がりつつあります。その1つが分子標的薬とよばれるものです。
★分子標的薬とは?
病気の細胞=がん細胞などの表面にあるたんぱく質や遺伝子をターゲットとして効率よく攻撃する薬として注目されています。元々は、体内の特定の分子を狙い撃ちして、その機能を抑えることによってより安全に、より有効に病気を治療する目的で開発された薬のことですがぜんそくの治療にも使われる。
★分子標的薬「ゾレア」
2009年に初めて発売されたのが 「ゾレア」という商品名のお薬です。「ゾレア」はぜんそくを引き起こす特殊な分子を標的にしています。ぜんそくを引き起こす特殊な分子は本来、外敵を攻撃する役割があるのですがアレルギー物質と一緒になると、ある免疫細胞にくっついて炎症物質を出してしまいます。この炎症物質を出さなくするのが「ゾレア」です。「ゾレア」を皮下注射すると、ぜんそくを引き起こす特殊な分子が免疫細胞とくっつくのを阻んで炎症物質の放出を抑えることができます。市販後の調査では、6割以上の患者さんに効果があったため、「ゾレア」は2015年版の「喘息予防・管理ガイドライン」でも治療薬に位置づけられました。
★分子標的薬「ヌーカラ」
さらに2016年には、「ヌーカラ」という商品名の薬も発売されました。「ヌーカラ」は、体内にある特殊なたんぱく質を標的にしたお薬です。ぜんそくの原因の1つにたばこの煙や、風邪のウイルスがあります。たばこの煙や風邪のウイルスなどが、特殊なたんぱく質を活性化させて、喘息が引き起こされるのですが、「ヌーカラ」を皮下注射すると、特殊なたんぱく質を抑えて、ぜんそくを抑えるのです。こうした分子標的薬が、重症のぜんそく患者さんの負担軽減になっています。
★内視鏡を使った「気管支サーモプラスティ」
一方、薬ではなく、外科的に治療するという選択肢も広がりを見せてきていて、症例数が増えています。「気管支サーモプラスティ」という治療は、むくんだ気道の筋肉を、温めることで正常な状態に戻していきます。内視鏡を使って、むくんだ筋肉を直接温め、気道を広げていきます。カテーテルの先端に電極を取り付けた気管支用の内視鏡を、口や鼻から入れます。電極には高周波電流が流れていて、それで65度で10秒間、気道の筋肉を温めます。1ヶ所温め終えたら、少し電極をずらし、徐々に温める範囲を広げます。そうして、1時間くらいの間に、50箇所から70箇所を温めていきます。これを右肺の下、左肺の下、両方の肺の上と3回に分けて行っていきます。1回目の治療からそれぞれ3週間の間隔を置い行います。治療した後に、痛みなどはほとんどありませんが、治療の刺激で一時的な発作が起こることもあるので、1週間ほどの入院も必要になります。基本的な薬の治療をやっても発作が続く重症の、18歳以上の患者さんが治療の対象です。
★「気管支サーモプラスティ」はどこで受けられるのか?
去年11月の時点で導入施設は全国で107施設あり、治療を受けた患者数は450例と、治療を受ける患者さんが増えてきています。背景には治療代などがあります。薬の場合、標準的でも治療代でも1か月にかかる費用は、およそ20万円、5年間で総医療費は1000万円を超えます。一方、手術、気管支サーモプラスティは3回の治療に150万円くらいかかりますが、2015年に保険適用され、3割負担となっていて、高額療養費制度も使えます。
さらに5年間効果が続くといわれているので、その点からみても、有用な方法であると思います。ただ、この治療は現時点では生涯1度きりの治療法となっていますので、いつ受けるのが最良なのか、そこは十分に医師と話し合って納得して決めるべきでしょう。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫