夏休みに入ると「ゲームばかりしてないで」という会話があるかもしれませんが、こうした中、WHOが、「ゲーム依存症」を国際的に疾患=病気として認定しました。そこで、7月16日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。
★ゲーム依存症とは
昔からゲームのやりすぎ、という人はいました。ただ、昔と今ではゲームの中身が変わってきています。昔は、ゲームは、ファミコンなど単体で、個人で遊ぶものがほとんどでした。その場合、どこかで終わりが来るものが多かったんです。
ところが今は、スマートフォンやインターネットを通じて、他人と繋がって、チームで 一緒に何かを探したり、戦ったりするという、「オンラインゲーム」が普及しています。このオンラインゲームの特徴は「終わりがない」ということなんです。そうなると、チームで戦うので、勝手に抜けにくいこともあり、はまりやすいんです。その結果、1日20時間とか、何日も徹夜したとか、途中、追加料金を何万も払ったとか、 ネット上では「ネトゲ廃人=ネットゲーム廃人」と呼ばれるような人が出てしまっています。
★WHOはどんな認定をしたのか?
WHOは「ゲーム依存症を病気とする科学的な根拠が蓄積された」として、 国際疾病分類に初めて盛り込みました。来年5月のWHOの総会で正式に決定されます。
では、「ただのやりすぎ」と「ゲーム依存症」の境界はどこにあるのか?これについては、おおまかに、次の3つの条件に当てはまると依存症となるそうです。
- ゲームをする時間や頻度を自分でコントロールできない。
- ゲーム以外への関心が低くなり、日常生活でゲームが最優先になる
- 日常生活に支障をきたしてもゲームを優先する
つまり、自分で「ゲームをしたい」という行動を抑えられず、食事や仕事・学校に支障が出る。こういった状態が1年以上続くと「ゲーム依存症」と診断される可能性があります。
★ゲーム依存症は、コントロールできないのか?
ゲームへの衝動をコントロールできない理由は、ゲーム依存症が“脳の病気”だからです。ゲームをずっとやり続けると、脳の前頭葉の中にある、理性を司る部分の機能が落ちます。その結果、「ちょっと待てよ、ここは抑えなければ」と、抑えることができなくなります。
これは、アルコール依存症や、ギャンブル依存症などと重なっている部分があります。また、脳の中のドーパミンが影響している部分もあります。ゲームを連想させるものを見たりすると、ドーパミンという物質が分泌されます。すると、ゲームをしたいという衝動に駆られてしまうのです。
こうしたゲーム依存ですが、WHOによると、「ゲーム愛好家の2~3%が依存症」との推計を示しています。また、日本でも厚生労働省の調査では、成人のおよそ421万人、中高生のおよそ52万人がゲームなどのネット依存の可能性があると推計されています。
★解決策は?
ゲーム依存症は、アルコール依存症や、ギャンブル依存症などと同じ部分もあるので、治療も同じような方法となります。
まずは、検査によって、本人が自分の状態を自覚する必要があります。そのためにまず、血液検査をおこない、健康状態を調べます。依存症の場合、ヘモグロビンなどが低下するなど、影響が出てきます。
さらに脳にも変化が起こるという研究もあるため、MRI検査や脳波検査も行います。海外の論文では依存患者の脳に、様々な部位の萎縮や、乱れがあるとされています。
こうした検査で、患者さんの状態を客観的に数値化することで、依存症を自覚させます。
★ゲーム依存症だと認識した後は、どんな治療になるのか?
アルコール依存症などにも使われる認知行動療法が有効です。自分の費やしたゲームの総時間は何時間なのかを計算し、それをほかのことに当てていたらどれくらい有効だろうか。などを書き出します。医師などの助けを得て、自分の行動を認識して、行動を変えていく心理的な方法です。人によっては、それを他人の前で話すグループミーティングも有効です。
自分の考え方の変化につながり、依存から抜け出すきっかけになったり、実際にゲームをやめることができた人の体験に触れることで、手本にもなるケースもあります。それでもダメな場合は、入院して、強制的に治療が行われるケースもあります。また依存症となると、同時に、うつ病になっているケースもあります。そうした場合は、薬による治療も行う必要も出てくるので、医師と相談してください。
★ゲームそのものが問題ではない
難しいのは、ゲームそのものが問題ではないということです。お酒もギャンブルも適度に楽しんでいれば、趣味の範囲です。ところが、そこを超えてしまうとアルコール依存、ギャンブル依存になってしまいます。ここには、その人の性格や、置かれた環境も影響しているので難しいところです。一般的に、生真面目で、人間関係が苦手で、現実に不満があると依存症になりやすいようです。
★依存症の理解が広がっていない
依存症は理解が広がっていないのが現状で、それが問題にもなっています。ゲームに限らず、アルコール、ギャンブル、薬物などの依存症は、厚生労働省によれば、「やめたくてもやめることができない状態になる疾患=病気」で、「適切な治療を行えば、治すことができる病気」と定義されています。
ところが問題は、依存症=病気、という認識が広がらずどうしても「病気だとは思わない」「ただだらしないだけ」という認識が根強いようです。
例えば、アルコール依存症についてですが、内閣府が2年前に行った調査では、 アルコール依存症の人に対するイメージとして、43・7%の人が、「本人の意志が弱いだけであり,性格的な問題である」と答えたそうです。
これが問題なのは、患者を正しい治療から遠ざけてしまうことです。自分ではどうにもできない状況になのに「ちゃんとしなさい」と叱るだけでは治りません。ゲーム依存症の患者が病院などを訪れるきっかけで一番多いのが「他人に付き添われて」です。つまり、周りの理解があって、初めて自分も理解するので、周囲の理解が重要です。
★ゲームなどの依存症になったら、何科を受診する?
一般的には、心療内科や精神科などメンタルクリニックですが、オンラインゲームなど、ネット依存については、関東では、「久里浜医療センター」が有名。国内初の「ネット外来」を開設した病院で、アルコール依存などでも実績があります。このほか世田谷の「成城墨岡クリニック」も、ネットやゲーム依存に取り組んでいます。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫