漫画「ちびまる子ちゃん」の原作者、さくらももこさんが乳がんのため亡くなりました。53歳という若さで亡くなったということもあり、若い方も含めて乳がんが心配な人が多いと思います。
そこで、9月3日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、改めて乳がんの検査を中心に取り上げました。
★日本の乳がん検診受診率の低さ
まずは、乳がんについてですが、そもそも乳房には母乳をつくる乳腺と、母乳を運ぶ乳管、それらを支える脂肪などからなっています。乳がんの多くは乳管から発生し、「乳管がん」とも呼ばれます。そんな乳がんですが、乳がんと診断された人が、5年後にどれくらいの割合で生きているかを示した5年生存率は、国立がん研究センターによると、90%を超えます。
ただ、検査を受けず、見逃してしまう人もまだまだ多くいるのです。日本の2010年の乳がん検診の受診率は40歳以上で24・3%でした。これが、今は45%くらいにアップしています。かなり上がったように感じますが、他の国と比べるとまだまだ差があります。フランスやスウェーデンは80%以上で、アメリカやイギリスも70%以上です。乳がんを早期発見するためにも検査をしっかり受けることから始めるべきです。
★マンモグラフィーは万能ではない
乳がん検診は画像診断が基本となります。まずは、「マンモグラフィー」です。
マンモグラフィーは、簡単に言うと、X線=レントゲンで、胸を撮影して、シコリがないかどうか、見つける検査です。シコリがあれば、それが白く写ります。またシコリが悪性かどうかを見分けやすいというのがメリットとされています。
ただ、シコリが小さすぎると、見つけにくいという問題もあります。女性の胸の中には「乳腺」という、母乳を作ったり運んだりする「腺」があります。リンパ腺などと同じ漢字を書く「腺」です。この乳腺は、マンモグラフィーで撮影すると、白く写り、シコリとかぶります。
50歳以上の方々は、乳腺が目立たなくなっているので、問題ないのですが、20代から40代では乳腺の密度が高いため、胸全体が白くなります。そのため、小さなシコリがあっても、この乳腺に隠れて、見つけにくいわけです。マンモグラフィーは万能ではない、ということになります。
★エコー検査との併用が重要
乳腺が多い場合にはむしろ「超音波=エコー検査」が重要になってきます。乳がんの検査というと、「マンモグラフィーを受けましょう」という運動が成功して、「乳がん検査=マンモ」となっていますが、乳腺が多い時は「エコーがより重要」です。
エコー検査はお腹や心臓のエコー検査と同じように、乳房に超音波を当ててがんの有無をチェックします。エコー検査でも、乳腺は白く写るのですが、シコリについては、マンモグラフィーと違って、小さなものでもはっきりと「黒い影」で写ります。マンモグラフィーは「乳腺もシコリも白」ですが、エコーは「乳腺は白、シコリは黒」なので、分かりやすい、というわけです。
若い女性は乳がんの進行が早く、1年で数センチなることもあります。だから、少しでも小さな段階で見つけるのが重要なので「エコー検査」が必要です。
実際に、40代の女性にマンモグラフィーとエコー検査を併用することによって、早期の乳がんの発見率が1.5倍程度上がったことが報告されています。30代、40代の方々はエコー検査がベストです。
★「遺伝子検査」という選択肢
乳がんには遺伝性のものもあります。患者さんの家系を調べた研究で、乳がんの発症と関連している2種類の遺伝子が特定されました。この2種類の遺伝子は男女関係なく誰でももっている遺伝子ですが、生まれつきこの2種類の遺伝子のどちらかに変異があると、乳がんになりやすいことが分かっています。ですので、この遺伝子が陽性の人は、いつ乳がんになっても不思議ではないのです。
遺伝子検査は高額です。ただ、検査を受けなくても、遺伝性乳がんの可能性が高いかどうかは、ある程度、推測できます。それは、
- 親戚など血縁者に40歳前に乳がんになった人がいる方
- 親戚などに複数、乳がんになった人がいる方
こうした方はリスクが高いのではと思われますので、毎年検診を受けるのが重要です。
そしてこの場合は、まずMRI検査を行うことをお勧めします。
★「MRI検査」の有用性
マンモグラフィーやエコーはすぐに使える点で、とても有効ですが、MRIはシコリに対しては最も感度が高いのです。ごく小さな乳がんがないかどうかを厳密にチェックできる検査です。MRIで疑わしいところがあればマンモグラフィーとエコーを受けてみてください。これは乳がんの専門医の方々が勧めています。
★自己検診を心がける
ここまで、乳がんの検診についてお話ししましたが、乳がんは、自分で触って見つけることのできるがんでもあります。実際、乳がんの発見状況はおよそ70%が自分で触って見つける自己検診によるものなのです。特に検診の受診率が低い日本では、自己検診での発見が圧倒的に多いのです。そのため、自己検診は月に1回程度行うことが大切です。
- 上半身が映る鏡の前に立ち、頭の後ろで手を組んで、胸を張ります。乳房に「くぼみ・しこり」や「皮膚の色の変化」、「腫れや痛み」がないかなどをチェックします。
- 続いて乳頭に向かって乳房をかるくしごくようにしてから乳首をつまみ分泌物がないかをみます。血液が混じったような分泌物の場合はすぐに専門医を受診しましょう。石けんやジェルをつけて行うと滑りやすくシコリがわかりやすいです。
- そして最後に仰向けになってシコリの有無を調べます。調べる乳房側の腕を頭の方に上げ、反対側の手で乳房に触れてチェックします。
こうした自己検診を日頃から意識して行うことが、乳がんの発見につながると思います。なにか異常を感じたら、専門医を受診しましょう

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫