毎週日曜、夜9時からお送りしている
【ラジオシアター~文学の扉】
今週はゲストに新納慎也さんをお迎えして、
チェーホフの『決闘』前篇をお届けしました。
チェーホフ作品のシニカルさを押し出しながら、コメディ色が強いラジオドラマとなりました。
作品に登場するのは冷め切った夫婦。
まず印象に飛び込んできたのは、夫・ラエーフスキーを演じた新納さんの男前な声です。
若くて魅力的な男性という説得力がありました。
収録が進むにつれて、ラエーフスキーの心の声と実際の振る舞いの違いに拍車がかかり、新納さんの顔つきまで変わっていきました。
掛け合いが中心だったため、舞台のような臨場感があり、演じているお二人の表情もお見せしたかったです。
リハーサルでディレクションを受けたあとに、本番でぴったり的を得たお芝居をする中嶋さんと新納さん。
その引き出しの豊かさと対応力に目を見張りました。
演じ方にはお二人それぞれのアイデアが見えて、掛け合いをしながら互いに相乗効果があるのも素晴らしかったです。
ラエーフスキーの人物像を早く掴んだ新納さん。
心の声とは裏腹の振る舞いや、時に顔を出す小物感の表現を楽しんでいるようでした。
新納さんの持つ男前な声も様々に変化していき、リアルな男性像を感じました。
中嶋さんが演じた妻・ナジェージダは、神経質だけれど、だらしない生活で太っている女性。
その設定を受けて芝居を修正した途端、「声が太った!」と感動しました。
毎度のごとく脇役のお芝居も光ります。
演じたのは、ラエーフスキーの決闘相手となる学者。
初めは冷静な低い声で演じていましたが、本番では癖のある高い声で畳み掛けるように演じており、
頭の堅い感じが増してドラマに存在感を放ちました。
さらに言及せずにはいられないのが、酔っ払ったナジェージダのシーン。
勢いで夫を馬鹿にしたり情緒不安定にわめいたりするお芝居が、中嶋さんの独擅場という感じで、
そこに挟まる冷めた夫の心の声との落差に笑いました。
人間模様は他人から見ると滑稽で、チェーホフ作品は実はコメディで演ると魅力的というのが発見でした。
by田上真里奈