毎週日曜、夜9時からお送りしている
【ラジオシター~文学の扉】
今週は先週に引き続き、ゲストに新納慎也さんをお迎えして、
チェーホフの『決闘』後篇をお届けしました。
前篇のコメディタッチに加えて、後篇は人間の本質をシリアスに描く要素もありました。
新納さん演じるラエーフスキーは、決闘前夜に自分の人生を振り返り、様々なことに思いを巡らします。
その語りには、実感を込めつつ舞台上で台詞を言うように朗々として、というディレクションがありました。
ラエーフスキーは死を意識したことで、自分本位な考え方が変化し、
過去や自分以外の人間にまで思いを寄せる冷静さを持っていきます。
そうして、妻・ナジェージダに向けられる優しい言葉も、囁きではなく芯のある声で落ち着いて発せられました。
しかし次の瞬間には、妻の浮気を知って動揺しているのが何とも人間らしく、滑稽です。
「人間ってこんなもんだよね」と笑い飛ばせる、
ウィットな明るさが素敵な新納さんの魅力が詰まったお芝居でした。
中嶋さん演じるナジェージダも非常に人間臭く、それが男女で違うところも面白かったです。
泣きながら浮気を告白するシーンは、自分の弱さを嘆きながらも、
辛い気持ちをわかって欲しかったと、ずるいところがリアルです。
女の涙は武器だ、という新納さんに対し「へぇ~」とどこかシニカルな目線の中嶋さん。
女性としては、悲劇のヒロイン振っている女性にムッとするものですよね。
そんなシニカルな目線が、中嶋さんのナジェージダのお芝居を素晴らしくリアルで滑稽にさせたのかもしれません。
2週に渡りお届けした『決闘』のラジオドラマ。
チェーホフの人間を描く力に「さすが」と思うと同時に、
中嶋さんと新納さんの演じ方で人物像がさらに立体的になるのを感じました。
by 田上真里奈