今年の3月、リスナーの方からの質問を受けて「変形性ひざ関節症」を取り上げました。するとその後「変形性股関節症についても取り上げて欲しい」という依頼が数件ありました。実際、この変形性股関節症に悩む方も多く、一方で、その治療はどんどん進化しています。
そこで、11月12日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、変形性股関節症とその最新医療について、取り上げました。
★変形性股関節症とは
「変形性股関節症」とは、関節のつなぎ目の軟骨が、すり減ってしまう状態です。
普通の股関節は、この軟骨によって滑らかに動き、広い可動域を保っています。しかし軟骨がすり減ることで、骨と骨が直接こすれ、骨の形が変形してしまいます。こうなると、股関節の動きが狭まってしまい、また、股関節に強い痛みが出ます。
具体的な症状としては、「座っていて立ち上がる時に痛い」「歩き始めに痛みがある」「脚が開きにくい」そして、階段や車・バスの乗り降りも手すりが必要になります。さらに進行すると、「足の爪が切れない」「靴下がはけない」となります。また痛みが出た方の脚が少しずつ短くなり、左右の脚の長さの違いから、「跛行(はこう)」になるなど、どんどん容体が悪化してきますので注意が必要です。
★原因は?
軟骨がすり減ってしまう主な原因は、加齢です。そのため多くの人が悩んでいます。日本整形外科学会の資料によれば、日本人の1〜4・3%、およそ120〜510万人が、変形性股関節症で悩んでいるのではと推計されています。そして男性は2%程度ですが、女性は2~7・5%で、女性の方がかかりやすい病気です。女性の場合は、生まれつき骨盤の被りが浅い方もいて、その影響で発症する方も多いです。
★治療は?
まずは骨の状況を見極めるよう、レントゲンや、CT、MRIで詳しく調べます。その結果、症状が浅ければ、まず手術ではなく薬や運動などの「保存療法」が行われます。
薬物療法では、痛み止めのほか、筋肉の張りを抑えて関節をゆるめる筋弛緩薬もあります。
運動療法は、股関節回りの筋肉をリラックスさせ、同時に筋肉を強化します。
このほか、患部を温める温熱療法なども保存療法として用いられます。
ただし、こうした療法は対処療法で、軟骨が再生されるものではありません。根本的に治す場合は、「手術療法」となります。
★どのような手術をするのは?
主な手術には3つあります。「関節鏡手術」「骨切り術」「人工関節手術」です。
まず、関節鏡手術は、簡単に言うと、腹腔鏡手術の関節版です。切り開かず、1センチ程の穴を2、3ヶ所開け、そこから内視鏡などを入れて手術します。これで、痛みの原因となっている箇所を削り取り、関節のぶつかりの原因をとりはぶきます。
続いて「骨切り術」で、これは骨盤の一部、または大腿骨の一部を切り取る手術です。骨が組み合うところを広くすることで、可動域を広げる仕組みです。
どちらの手術も、痛みが軽減されますが、ただ、軟骨が十分に保たれていることが前提です。そのため、症状が比較的軽く、概ね40歳くらいまでの方に向いている手術です。
また、これらの手術も軟骨を再生させるものではないので、完全に治るわけではないです。変形性股関節症は少しずつ進行していきますので、手術後も定期検診で進行を調べる必要。
★完全に治す方法はないのか?
変形性股関節症を完全に治すのは、近年進歩が著しい「人工関節置換手術」になります。文字通り人工股関節に置換=交換する手術で、軟骨がすり減ってしまった方はこれになります。
具体的には、変形して傷んでいる股関節を切り取って、人工関節をはめ込みます。股関節は、グーの形をした大腿骨の先端を、パーの形をした骨盤側が受け止めています。このグーとパーの部分を、両方とも、人工の滑らかに動く器具に交換、はめ込みます。これによって、軟骨が十分にあった時のような動きを完全に取り戻す、という仕組みです。
こう聞くと、非常に大掛かりな手術をイメージしますが、最近はどんどん進化しています。昔は、手術には15センチほどの切開が必要でしたが、今は7、8センチですみます。
★時間はどれくらいかかるのか?
手術にはいろいろな手法がありますが、太ももの前方から切開する方法では、手術時間は片脚で1時間弱で済みます。この方法だと、筋肉を切ることもないので、体の負担が少なく、回復のスピードも速いです。
一般的には、術後2〜3日程度で車椅子移動を始め、4〜5日程度で歩行練習を始めます。そして、術後、3週間程度で退院でき、事務的な仕事でしたら間もなく、社会復帰可能です。ちなみに退院後は、1か月くらいは補助的に杖を使う方もいますが、やがて運動も可能です。
あとは、定期的に通院して、関節の様子をチェックするだけです。ちなみに、退院のスピードは個人差があって、早い人は術後4日で出た人もいるそうです。逆に相当悪化し、車椅子で入院した方は、2〜3か月かかるケースもあるようです。また、高齢になればなるほど、手術の体への負担は重くなるので、早い方がいいでしょう。
★注意点は?
昔は耐久性が問題とも言われましたが、最近は品質も上がって、耐久性も伸びています。最新の人工股関節では、酸化して劣化するのを防ぐようビタミンEが添加されたりしています。これらによって、使い方によって個人差はありますが、20〜30年は持ちます。60歳以上で、人工股関節を入れた方は、ほぼ再手術は必要ないでしょう。
★費用は?
人工股関節の手術は、保険適用ですので「高額療養費制度」を使えば自己負担は少ないです。年収によって変わりますが、一般的には10万円前後。高収入の方でも30万円程度と考えていいでしょう。
最後に、人工股関節の手術の特徴は、受けた人の満足度が高いということがあります。手術を受けた人の98%が順調な経過をたどり、痛みのない生活を実現されています。
術後は、長い間悩んでいた痛みが劇的に取れるため、買い物や旅行はもちろん、スポーツも、ゴルフなど、楽しんでいる方もたくさんいます。抵抗感のある方も多いのですが、術後「もっと早く受ければよかった」という人もいます。頭から否定するのではなく、まずは担当の医師に詳しく聞いていただきたいと思っています。
一例として東京近郊で有名な病院は、玉川病院、JR東京総合病院、湘南鎌倉人工関節センター、順天堂大学練馬病院など。
東京以外の病院としては、JCHO大阪病院、関西労災病院(兵庫県尼崎市)などが有名です。
最近は、手術はコンピュータで三次元シミュレーションで正確に計画されます。こうしたことも、安心材料になっています。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫