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Channel: 放送後記 – TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~
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2016年6月20日(月) 第13回放送『野沢温泉』

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野沢温泉村の共有財産として村人が守り、維持している外湯。湯と村民の心の熱さが肌に沁みる

野沢温泉村の共有財産として村人が守り、維持している外湯。湯と村民の心の熱さが肌に沁みる

“名は体を表す”と言うが、長野県の野沢温泉村はまさにその名の通り温泉が豊かに湧きだす村だ。名湯の魅力、周辺の見所などを紹介しよう。

村の共同湯=外湯のひとつ大湯。江戸時代の湯屋造りを再現している

村の共同湯=外湯のひとつ大湯。江戸時代の湯屋造りを再現している

 温泉とスキーで知られる野沢温泉村だが、これからのシーズンは豊かな名湯と山の緑をたっぷりと味わいたい。
 野沢温泉村は長野県の北部にあり、西に千曲川、東に標高1650mの毛無山がそびえ、その間のゆるやかな斜面に湯けむり上げる集落が広がっている。この温泉地の特色は外湯と呼ばれる共同湯が13か所点在し、村人だけでなく訪れた観光客にも無料で開放していることだ。温泉の始まりは奈良時代との伝聞があるが、記録に残るものでは約450年前の上杉謙信、武田信玄らの書状などで、古い歴史を持っている。
 江戸時代に入ってからは湯治場として大いに利用され、村人はこの温泉を森林などと共に暮らしを支える財産として共同で維持し、管理してきた。その精神は今も野沢組という住民による自治組織によって受け継がれている。外湯の清掃や管理もその中の湯仲間がという周辺の住民によって行われ、いつも清潔で気持ちのいい温泉に誰もが入ることができる。観光客はいわば村人のおもてなしにより温泉に入れてもらっている訳である。

源泉かけ流しの湯が外湯の湯船にあふれている。外国からの観光客にも人気が高い

源泉かけ流しの湯が外湯の湯船にあふれている。外国からの観光客にも人気が高い

 13か所ある外湯のうち、江戸時代の湯屋造りの建物を再現したのが温泉街の中心にある大湯で、屋根の上には温泉の湯気を抜く小屋根がつけられ、男女それぞれの浴槽には、あつ湯とぬる湯の2種類が設けられている。ぬる湯と言っても一般の温度よりは高いのでよく体を温泉になじませてから入浴した方がいい。野沢の温泉の泉質はほとんどが単純硫黄泉だが、名湯と言われる所以は「泉質もさることながら、その還元性の高さにあります」と野沢温泉村観光協会の森行成(ゆきしげ)会長は強調する。「還元性が高いということはものを腐敗させる酸化を抑えることになりますから、入浴することで身体の酸化を抑え、アンチエイジング、つまり老化防止に役立つのです」と言う。これは法政大学の大河内正一教授による酸化還元電位分析という科学的な手法によって裏付けられたもので、入浴後には肌のつるつる感や張りなどを実感する人は多い。
 この温泉の効果を最大限に引き出すのは鮮度の高い、できる限り酸素に触れない湧きたての温泉に入ることで、野沢温泉では10年ほど前に“野沢温泉源泉かけ流し宣言”を行い、13の外湯や約25軒の宿で源泉のかけ流し、つまり温泉を循環させるのではなく、湧き出た源泉を湯量を調整することで温度管理をし、常に新鮮な湯を浴槽に注いでいるのである。そのために日々の清掃は事欠かぬと言う。5月26日には“源泉かけ流し、全国温泉サミット”も開催、その良さを全国にアピールした。宿の温泉に入ったり、外湯巡りをしたりして、その張りやすべすべ感を肌で楽しむのも野沢温泉の過ごし方だ。

“村の台所”と言われる麻釜。野菜や卵などをここで茹でる

“村の台所”と言われる麻釜。野菜や卵などをここで茹でる

 野沢温泉の源泉は約30か所と言われるが、その一つ、麻釜(おがま)が大湯の先に湯けむりを上げている。ここは約90度の湯が湧きだし、そこに5つの湯釜が設けられている。ここでは人が湯に浸かるのではなく、持ち寄った野菜を浸ける、つまり熱い温泉で野菜を湯がき、たまごを茹でるいわば村の台所なのである。観光客の利用はできないが、朝や夕方に行くと、宿のご主人や近所の主婦がホウレンソウやトウモロコシ、卵などをザルにいれて茹でている。聞くと、温泉で野菜を湯がくと甘みがでて、しゃきっとした歯触りがでるという。卵はもちろん白身が半熟の温泉卵である。
 野沢菜で知られる漬物も秋の収穫の後、この麻釜などで温泉を使って洗う。これを村ではお菜洗いと言い、どこも同じ時期に始めるのでどの外湯のまわりもお菜洗いでごった返す。これも野沢温泉村の晩秋の風物詩である。

野沢菜発祥の健明寺。5月上旬には野沢菜の黄色い花に包まれる

野沢菜発祥の健明寺。5月上旬には野沢菜の黄色い花に包まれる

 大湯から麻釜とは逆の坂道を登ると健明寺が左手に見えてくる。ここが野沢菜の発祥の寺である。寺伝によれば第8代の晃天園瑞(こうてんえんずい)住職が江戸時代に京都で遊学した後、野沢へ帰る際天王寺蕪の種をお土産に持ち帰り、早速蒔いたところ蕪はできず、葉と茎が大きく成長した。これが今日の野沢菜で、塩漬けにしてみると美味しく、野菜の不足がちな冬の時期に貴重な保存食として大いに喜ばれ、現在も健明寺では敷地内の畑で栽培し、寺種として一般にも販売している。散策の折に立ち寄ってみるといい。

「朧月夜」や「故郷」など数々の童謡の作者で知られる高野辰之を記念して建てられたおぼろ月夜の館

「朧月夜」や「故郷」など数々の童謡の作者で知られる高野辰之を記念して建てられたおぼろ月夜の館

 童謡の「朧月夜」で歌われる“菜の花畠に‥”の菜の花は実はこの野沢菜の花と地元では広く解釈されている。作詞家の高野辰之は同じ長野県の出身で、隣の旧豊田村の生まれ。晩年は源泉の一つ麻釜の近くに別荘を設け、野沢の村と温泉をこよなく愛したという。終焉もここで迎えている。毎年5月に咲くその花を見ると、なかなか見分けがつきにくいほどよく似ている。
 健明寺から歩いて10分ほど下ったところに高野辰之を記念したおぼろ月夜の館が立ち、高野氏の東京の自宅にあった書斎の斑山文庫の一部をはじめ著書、書簡などを展示。9時、12時、17時には館の塔から「朧月夜」のほか高野氏が作詞した「故郷」のメロディーが村内に流れる。懐かしい曲を口ずさみながら外湯を巡るのも野沢温泉の魅力だ。

露天風呂やプールなどレジャー感覚で温泉が楽しめる野沢温泉スパリーナ

露天風呂やプールなどレジャー感覚で温泉が楽しめる野沢温泉スパリーナ

 共同湯ではないが新しい有料の外湯が最近お目見えした。ひとつは野沢温泉スパリーナといい、もうひとつはふるさとの湯である。
 野沢温泉スパリーナは平成26年にオープンした施設で、室内の温泉浴室に加え、水着を着けて男女が一緒に入れる大露天風呂と展望露天風呂を備えている。男女が一緒に入れるのでファミリー層や冬季にはスキーなどで宿泊している外国人の夫婦などに好評だ。大露天風呂の外には7月9日からオープンするプールもあり、こちらは子供達に大人気。温泉をレジャー感覚で楽しめるのが受けているようだ。
平成23年にオープンしたふるさとの湯は麻釜の近くで、高野辰之がかつて別荘を設けたあたりに立つ。こちらは内風呂と露天風呂に分かれ、シャワーなども備えられているので温泉が湧く銭湯として若い人の利用が高い。
外湯を中心に温泉文化を育み、守ってきた野沢温泉だが、時代の移り変わりと共にその楽しみ方も変わってきたようだ。

問い合わせ:野沢温泉観光協会
      ℡0269-85-3155
交通:北陸新幹線飯山駅下車、バスに乗り換え約40分。
   車は上信越道豊田飯山IC利用


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