今回は、ラジオをお聴きの型からお問い合わせがあった「過敏性腸症候群」がテーマです。
過敏性腸症候群は、原因に心当たりがなくて、検査を受けても異常が見つからないのに、下痢や便秘、腹痛を繰り返す病気です。命に関わる病気ではありませんが、仕事や勉強など、社会生活に支障が出て、人知れず悩んでいる人が多くいます。特に先進国に多く見られ、日本人のおよそ10人に1人くらいに症状があるといわれています。そんな「過敏性腸症候群」ですが、最近では、多くの治療薬が出てきて選択肢も増えています。
3月4日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、過敏性腸症候群」について取り上げました。
★過敏性腸症候群とは?
症状は、便秘や下痢、もしくはその両方が慢性的に繰り返して起こります。例えば、「職場や学校に行こうとすると、お腹が痛くなる」「試験や会議の前になると、急に下痢をする」「就職試験や出張で遠方に行くと便秘をする」など、ストレスがかかった時に一時的にお腹に不調が起こります。
症状別に見ると、下痢型が29%、便秘型が24%、両方起こる混合型が47%を占めます。男性は下痢型が多く、女性は便秘型が多い傾向にあります。その際、腹痛や腹部の不快感を伴います。またストレスや不安・緊張など、精神的に負担がかかる状況で、症状が悪化するのも、大きな特徴の1つです。
★どのような症状が起こるのか?
お腹の異常とストレスに関連があるのは、腸と脳が自律神経でつながっていることです。大腸の動きは自律神経を介してコントロールされているのですが、脳が過剰なストレスを感じると、ストレスホルモンが分泌されて、自律神経の脳の側が刺激を受けます。それが腸に伝わると、腸の動きに異常が生じるということになります。例えば、腸の動きが速すぎると下痢が起き、逆に腸の動きが十分でないと便秘が起こります。
こうしたお腹の異常は、腸が過敏になっていると起こりやすくなります。腸が過敏になる原因としては、サルモネラ菌やカンピロバクターなどに感染して起こる感染性腸炎があります。感染性腸炎は薬によって治しますが、治ったように思えても、腸に軽い炎症が続いていることがあり、これによって腸が過敏になります。また腸内の悪玉菌が増えると、腸が軽い炎症を起こし、過敏になります。
こうした腸が過敏になると、症状が出やすくなりますが、便秘や下痢は健康な人でもよく起こる症状なので、自分の病気に気づかない人も少なくありません。そのため「体質だろう」と放ったらかしにしたり、市販薬で対処している人も多くいます。ただ、過敏性腸症候群は病気です。お腹の痛みや不快感など、症状に困っている場合は病院を受診することが重要です。
★病院での処置は?
病院ではまず、「大腸がん」や「炎症性腸疾患」などがないか調べます。「内視鏡検査」などで、「大腸がん」や「潰瘍性大腸炎」などの病気がないかを調べます。心理的要因が強いと考えられるときは、「心理検査」も行われます。それぞれの検査で、ほかの病気がない場合に、過敏性腸症候群と診断されます。
診断がつくと薬物治療です。
基本的に第1選択薬となるのは、「ポリカルボフィルカルシウム」です。便秘、下痢、どちらにも効果のある薬です。2000年に承認された薬で、腸管内の水分を吸収して便の硬さを調整すします。ただし、効果が出るのに2か月くらいかかるという問題点もあります。
下痢を起こす患者さんに用いられるのは、「セロトニン3受容体拮抗薬」です。ストレスを受けると、大腸のセロトニンが増えて、腸の運動に異常が生じて腹痛や下痢を起こします。この薬は、腸内のセロトニンの作用を抑えることで、症状を改善するものです。以前は女性に対する効果が確認されていなかったため、男性にしか使えなかったんですが、2015年から女性にも使えるようになりました。
★進化する過敏性腸症候群の治療薬
ここ数年で飛躍的に進歩しているのが、便秘型の過敏性腸症候群に対する治療薬です。
便秘型には、「酸化マグネシウム」がよく使われます。安価で効果が高く、大腸の中で水分を引きとめて便が硬くなりすぎるのを防ぎます。ただ、副作用として高マグネシウム血症を起こすことがあります。
そこで2012年、日本で32年ぶりに便秘薬として登場したのが「ルビプロストン」です。便を柔らかくして排便を促す薬で、過敏性腸症候群と慢性便秘症がある患者さんは健康保険が適用されます。酸化マグネシウムのような副作用がなく高齢者や腎機能の悪い方でも安心して使えます。
さらにおととしの2017年に登場したのが「リナクロチド」です。腹痛を伴う便秘症の患者さんに効果があります。便秘の改善に加え、便秘に伴う腹部膨満や腹痛を改善することが期待されます。主な副作用は下痢ですので飲む量を調節することで対処できます。
★ほかの治療薬は?
このほかにも、腸の動きをコントロールして、下痢を抑制したり便秘を改善する「消化管運動機能調節薬」や腸内の環境を整える「乳酸菌製剤」などがあります。また下痢には止痢薬、ベンビには下剤や消化管運動促進薬、腹痛には抗コリン薬などが使われることがあります。
★薬以外の治療法
過敏性腸症候群は、生活習慣の乱れや、精神的なストレスなどで症状が悪くなることが多いため、生活習慣の改善やストレスの軽減を図ります。
食事療法としては、基本は1日3食規則正しく摂る。乳製品や脂肪分の多い食物をとることが症状を悪化させるきっかけとなることがあるため、控えるようにします。また香辛料やアルコール、コーヒーが症状悪化に関係していてその場合には控えるよう心がける。
一方、運動療法も腸の動きを整え症状改善に有効とされます。運動することによって自律神経のバランスを整えると共にストレス解消にもなり、過敏性腸症候群の発症や悪化の原因となるストレスを軽減させることができます。何より十分な睡眠です。睡眠不足はストレスそのものです。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫