閉塞性動脈硬化症は、手や足の血管の動脈が硬くなることで、血管が狭くなったり、詰まったりする病気です。そんな閉塞性動脈硬化症で怖いのは、日本で年間およそ4000人がこの病気で足の切断を余儀なくされているということです。こうした中で、閉塞性動脈硬化症の新たな治療薬が今月発売になりました。
そこで、9月16日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、閉塞性動脈硬化症になりやすい人や、治療法などについてお伝えしました。
★動脈硬化とは
動脈硬化ですが、血管の壁の内側に、血液中のLDL、悪玉コレステロールなどが入り込み、膨らみを作るのが、動脈硬化で、全身どこでも起こる可能性があります。この膨らみが大きくなると、血管の内側が狭くなり、血液の流れが悪くなります。
さらに、この膨らんだ部分はおかゆ状で破れやすく、血液のかたまり=いわゆる血栓ができて、血管の内側に詰まると、その先に血液が流れていかなくなり、さまざまな障害が起こります。この動脈硬化のなかで、下肢=脚の血管に起こる動脈硬化症を一般に閉塞性動脈硬化症という。
原因は、一般的な動脈硬化と同じで、糖尿病・脂質異常症・高血圧・喫煙・高尿酸血症・肥満・慢性腎臓病・ストレス・運動不足等のある方ほど起こりやすい病気であることがわかっています。
また動脈硬化は全身同時に進行するため、狭心症や心筋梗塞・脳梗塞などと合併しやすい病気。
一般的に50代から増え、65歳以上の6%から15%がかかり、5年ほどでおよそ20%の患者さんの歩行障害が悪化して、そのうち10%が足の動脈の血流が減少、数%が足を切断するともいわれている。
★症状は?
閉塞性動脈硬化症の症状は4つの段階に分けることができます。狭窄や閉塞が悪化すると、症状が段階的に進行します。
- Ⅰ度は、冷感・しびれ感です。冷感とは冷たく感じることで、指が青白くなることもある。
- Ⅱ度は、間欠性跛行といって、一定距離を歩くと、主にふくらはぎなどが締め付けられるように痛くなり、休まないと歩けなくなります。休むとまた歩けるものの、その歩ける距離が短いほど、重症となります。
- Ⅲ度は、安静時疼痛といって、じっとしていても足が痛み、夜も眠れなくなったり、刺すような痛みが持続することもあります。
- Ⅳ度は、潰瘍・壊死です。血液が脚の先に行かないので治りにくい潰瘍ができたり、黒く壊死することがあります。
この4つの分類は問診で症状を話すことによって分類できます。閉塞性動脈硬化症は、早期に発見し早期に治療を開始すれば、怖い合併症に襲われずに済みます。Ⅰ度や、Ⅱ度の症状に思いあたれば、循環器内科や心臓血管外科を受診しましょう。
問診に続いて、検査を行います。検査は、「上下肢動脈圧測定」や「超音波ドップラー検査」を行います。これらの検査で閉塞性動脈硬化症の診断はつきます。
「上下肢動脈圧測定」は、両腕と両脚の血圧を測り、異常がないかを確認します。
「超音波ドップラー検査」は、超音波機器を使って、足の血流状態をみる検査です。
このほか、CT検査、血管造影検査などを行って、検査して、治療方法を決定します。
★治療は?
閉塞性動脈硬化症の治療法は「薬物療法」「カテーテル治療」「バイパス手術」などなどさまざまな治療があり、先ほどの4つの段階にわけた症状の程度によって異なります。
Ⅰ度の冷感やしびれ感程度であれば、禁煙を厳守し、ウォーキングを心掛けてください。
Ⅱ度の、間欠性跛行がみられる場合には、禁煙を厳守し、生活習慣の改善を行うと共に薬物療法、運動療法を行います。
薬は血栓のできるのを抑える「抗血小板薬」、血管を広げて血流量を少しでも増やす「血管拡張薬」を中心に使われます。
一方で、Ⅲ度や、Ⅳ度の場合は、血管内治療や外科手術が行われます。血管内治療のひとつ「カテーテル治療」は、血管の狭い部分もしくは詰まっている部分にカテーテルを通して、風船やステント=金属チューブ等を使用して詰まった動脈を広げる治療。「バイパス手術」は、血管の狭くなっているところ、もしくは詰まっているところの先に、自分の足の静脈などの血管や、人工血管をつなぎ合わせる手術です。
このようにⅢ度やⅣ度では、バイパス手術や血管内治療が行われ、閉塞部位を回避することができるため症状の緩和効果も期待できます。しかし、完全に閉塞してしまっている場合や広範囲に及んでいる場合、全身状態が不良な場合ではこれらの治療が適さないこともしばしばあります。
★新薬登場
完全に閉塞してしまっている場合や広範囲に及んでいる場合、全身状態が不良な場合は、有効な治療選択が無く、足の切断を余儀なくされていました。 そうした中で、出てきたのが、今月10日に発売された新しい薬です。薬の名前は、「コラテジェン」と言って、今年2月の番組でも取り上げましたが、この薬が、Ⅲ度やⅣ度の患者さんに対して有望な治療薬です。
「コラテジェン」は、バイオベンチャー企業のアンジェスが作った薬で、「遺伝子治療薬」と言われる種類の薬です。新たな血管を生み出すたんぱく質を作る遺伝子が主成分で、患部に入れることで、血管を新しく作ることを促して新しい血管、「新生血管」を生みだし、血流を回復させます。つまり、遺伝子を使った再生医療です。この「コラテジェン」を使うことにより、潰瘍などを改善したり、足の切断を免れる可能性が高まる、というものです。
使い方は、「コラテジェン」を患部の筋肉8カ所に2~3回に分けて注射します。大阪大学医学部附属病院などで、患者24人に投与した結果、うち13人で潰瘍が治る効果を確認し、目立った副作用もなかったということなんです。
薬の価格は60万350円と高いですが、保険適用により患者さんの負担は原則3割となるほか、医療費負担に月額上限を定める高額療養費制度があるので、実際の患者負担はさらに軽くなります。
良い薬が登場して足の切断を免れるのは良いことです。でも、そのもっと前のⅠ期「冷感、しびれ感」の段階で知って、しっかり対応し、進行させないのが一番です。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫