大腿骨=太ももの付け根を骨折する高齢者が増えています。大腿骨骨折は、高齢者が転んだりしたときなどに起こりますが、大腿骨骨折では寝たきりになってしまう可能性があるほか、その後の生存率も下がることが明らかになっている。そんな大腿骨骨折ですが、早期の手術とリハビリを行えば、後遺症を減らすこともできる。
10月28日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)では、大腿骨骨折の治療やリハビリなどについて取り上げました。
★大腿骨骨折とは?
大腿骨とは足の付け根からひざまでの太ももの骨をいいます。人間の骨格の中でいちばん長い骨で、平均43センチほどもあります。体重を支えたり、歩いたりするのに重要な役割になっています。
大腿骨骨折の原因は、高齢化です。年齢とともに骨がもろくなるだけでなくバランス感覚が悪くなって、転びやすくなります。患者さんの数は70歳以上の方を中心に20万人ともいわれ、来年には25万人、2030年にはおよそ30万人に達すると予測されているので、決してひと事ではありません。
そしてこの大腿骨骨折の特徴の1つとして、女性に多いことが挙げられます。男女比では女性が4分の3を占めるとも言われます。
女性の方が多い理由は、骨粗鬆症と大きな関係があります。女性ホルモンには、骨を作る細胞と壊す細胞のバランスを調整する働きがあります。それが、閉経によって女性ホルモンが急激に低下してバランスが崩れ、骨を壊す働きが強まる。結果、骨密度が下がりやすくなります。骨密度の低い骨は大変もろいので、少しの衝撃でも骨が折れやすくなります。
★大腿骨骨折の治療とは?
高齢者の場合、転倒したあとに大腿骨の付け根の痛みがあり、立ち上がれなくなった場合、骨折が疑われますので、救急車を要請します。病院でX線写真を撮って骨折と診断されると、95%は手術となります。
なぜすぐに手術になるかというと、手術しないでくっつくのを待とうとすると、1ヵ月以上はベッドの上ということになります。お年寄りがそれだけの期間寝ていれば、寝たきりになり、歩けなくなる可能性が高くなります。また、床ずれ、誤嚥性肺炎、認知症などの合併症も大きな問題になります。
こうしたことが生存率にも影響するということも指摘されています。大腿骨骨折で寝たきりになると、1年後には2割の人が亡くなる、という報告や、65歳以上で大腿骨骨折になると、5年後の生存率が60%を下回る、というデータもあります。このため、手術は早期に行われます。
大腿骨骨折から手術までにかかる日数は、日本では平均4.2日ですが、欧米では2日以内です。すると入院日数も違ってきます。日本では入院期間が平均36.2日ですが、欧米では平均10日以内に退院できているのです。素早く手術に結びつけることが寝たきり予防だけでなく、入院期間も短縮になるのです。
★大腿骨骨折の手術とは?
手術ですが、骨折の種類によって違います。大腿骨の骨折には、大きく分けて2つの種類があります。1つ目は、股関節の中の骨折、2つ目は、股関節の外での骨折です。
股関節を腕で例えると、左手でグーを作って、右手でパーを作ります。その左手のグーを、右手のパーで包むと、股関節の形になります。左手が足の側、右手が骨盤の側、というわけです。股関節の中の骨折というのは、この左手のグーのあたりが骨折するものです。一方、股関節の外の骨折というのは、この左手のグーの下、ですから、ももに近い部分が骨折するものです。
では、まず股関節の中の骨折の手術ですが、骨のずれの程度が小さく治りやすいと考えられる場合はプレートやねじを使って、骨同士をくっつける手術を行います。
一方、ずれが大きく治りにくいと考えられる場合は、人工股関節になります。大腿骨の上端についている丸い部分=先ほどの左手のグーの部分を切除して、人工の骨に置き換える手術となります。
一方、股関節の外での骨折の手術ですが、こちらは、股関節の中の骨折よりも治りやすいため、 骨折部分をプレートや太いねじなどを使って固定する方法が取られます。
こうした手術のあとは、骨折する前よりも歩行能力=歩く能力が落ちることが多いのですが、適切なリハビリを行うことで、骨折する前の状態に近づけることができます。リハビリは手術翌日から始める事が多いですが、早い場合は当日からリハビリを始めるケースも。最初は、ベッドに寝た状態で脚を動かすことから始め、手術の翌日からはベッドから車いすに乗り移る訓練をして、徐々に立ったり歩いたりする訓練を行っていきます。
★術後について
手術後の痛みから体を動かすことを拒む方もいますが、1日寝たきりでいるだけでも筋肉が1%から3%低下するとされているので、できるだけリハビリを早く行う必要があります。
もちろん、リハビリでは痛みが起きないように、医師のみならずチーム医療で対応します。またリハビリを行うとともに、骨折を引き起こさないために骨粗しょう症に対する予防も行う。
その1つが骨粗しょう症の治療薬を使う方法です。現在、骨粗しょう症に対する治療薬が次々に登場し、個々の患者さんの症状や病気の進行度に応じて、選択肢が増えてきました。最近では、従来の治療薬よりも強力に骨密度の増加が期待できる薬なども出てきています。
こうした骨粗しょう症薬は、早いところでは手術と同時に使用することで、手術単独よりも歩行できるまでの期間が半分くらいに短縮しているのです。ただ、骨粗しょう症の薬は1年、2年、それ以上、といった息の長い治療で使い続けなければ効果を維持できません。せっかく薬物治療をはじめても、1年後には患者さんのおよそ5割が処方通りの服薬ができていないという報告があります。
痛みが消えた、なかなか骨密度が上がらないからと、自己判断で薬を中断しないようにする。また最近では、患者さんが継続しやすいように投与間隔や薬の形状に配慮した骨粗しょう症の薬も出てきています。
さらに骨折しないための予防として、まずは転倒することを防ぐことも重要です。家の中の段差をなくしたり、トイレやお風呂に手すりを付けると、体のバランスを崩しにくくなります。
また、お風呂おいすやトイレの便座の高さを高いものにすると、立ったり座ったりするときに転びにくくなります。そして、転倒予防の運動も、自分にあったものを指導してもらいましょう。