これまで番組では、新しく出てきた治療や感染が拡大する病気などについて取り上げてきました。
1月6日(月)松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、そうした中から、2020年に注目しておきたい医療に関するテーマを取り上げました。
★インフルエンザが一年中流行?
インフルエンザというと冬場の病気というイメージがあると思います。実際、去年の年末もインフルエンザの流行が子供を中心に拡大していると国立感染症研究所から発表されました。そして、流行のピークは1月末頃になります。まだまだ患者数を上昇しています。ふつうはこの後、流行は終息しますが、今年はこのインフルエンザが一年中流行する恐れがあるんです。なぜかというと、東京オリンピック・パラリンピックの開催です。
★インフルエンとオリンピックの関係
インフルエンザの流行は、世界中を「循環」しています。インフルエンザは日本が冬場の時に北半球で流行し、逆に日本が夏場の時には南半球で流行する。つまり、1年をかけて、北半球から南半球を「往復」しています。この結果、その狭間にある熱帯地域や亜熱帯地域は、半年に1度のペースで年に2回流行する。
ただ、近年、この状況に変化が生じています。その原因はグローバル化の加速です。とくに注目なのが、夏休み期間の7月~8月には多くの日本人が海外に出かけて、海外からも旅行客が押し寄せます。すると、その旅行客がインフルエンザを海外から日本に持ち込んでしまう、ということになる。
実際、日本でも9月にインフルエンザが流行しました。10年ぶりのことです。それが、海外からの旅行客と関係していると考えられています。こうした中で、ことしは東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。開催期間は7月から8月の夏場で、日本では流行期ではありませんが、日本が夏場の時に流行している南半球の観光客も多く日本を訪れ、その際にインフルエンザが日本に持ち込まれる可能性があります。
★インフルエンザ予防接種は年2回?
こうしたインフルエンザの危険性を予防するためには、やはりワクチン接種が欠かせません。インフルエンザワクチンは、感染を完全には予防できませんが、ワクチン接種をしていればもし発症したとしても軽症で済む可能性が高くなります。成人に接種した場合、2週間程度後から抗体が増え始め、4週でピークに達します。その後、3か月~5カ月で抗体は低下します。今年、外国の方と接する機会が増えそうな方、 あるいは、夏場に、大切な予定があり、慎重に過ごしたい方は、 予防接種も有効な選択肢の1つとなるでしょう。これからは、日本を訪れる観光客は増えますので、これを機会に、インフルエンザの予防接種は1年に2回、ということを考える時に来ていると思います。
★今年はがん検査が進化①エヌノーズとは
続いて今年注目なのはがん検査。これが進化するんです。
まずは体長1ミリほどの線虫という小さな生物と、人間の尿を使う「エヌノーズ」という検査です。線虫というのは、文字通り線=細い糸状の生物の総称で、海の深海から高い山の上まで 地球上のさまざまな場所に生息しています。
そんな線虫のなかで、今回の検査で使う線虫は、主に土の中に生息している「Cエレガンス」という名前の線虫です。この「Cエレガンス」はがん細胞から出る物質のにおいが大好きなんです。そのため、健康な人と、がん患者さんの尿があると、線虫はがん患者の尿に集まり、がん患者さんと、健康な人の尿を嗅ぎ分けられるのです。しかも極めて正確で、これまでの実験ではおよそ95%の確率で、がんを発見できて、しかも腫瘍マーカーと呼ばれる血液を使った検査でも見落としがちなステージ0という超早期がんもおよそ90%発見できるということなんです。
★エヌノーズが注目な理由とは?
線虫と、人間の尿を使う「エヌノーズ」という検査、ことし1月から実用化されます。しかも尿1滴でがんの有無が高確率で判定できるにもかかわらず、検査費用は1回9800円。反応するのは胃、大腸、肺、乳房、膵臓、肝臓、子宮、前立腺など15種のがんで、現時点では検査でがんの部位までは判明しないが、今後は特定も目指すということで注目の検査。健康診断への導入を希望する企業や医療機関、自治体の申し込みを受け付けているそうです。
★がん検査の進化②マイクロRNA
「1滴の血液で13種類のがんが発見できる」というもので、東芝や国立がん研究センターが協力して開発した検査です。この検査は、血液検査で、血液の中にある「マイクロRNA」という物質を調べる検査です。マイクロRNAは、遺伝子の働きに関わる物質です。がんは早期から、このマイクロRNAを分泌することで増殖したり転移したりするのです。そして、大腸がん、肺がん、膵臓がんなど13種類のがんを早期発見することができるのです。しかもその確率はステージ0でも98%と高い確率となっています。具体的には、1センチにみたないがんも発見できたのです。さらに、これまでは、診断までに時間がかかるといった課題がありましたが、採血から2時間以内に検査が終わるようになりました。
★今年注目な理由とは?
ことし2020年から実証試験を開始するということなんです。そして数年内に人間ドックの血液検査などで実用化を目指しています。さらに費用ですが、2万円以下での検査費用に抑えたい考えで、幅広い利用を見込んでいる。
ただ、2万円以下でも負担になる方もいらっしゃいます。ですので、まずはがんの有無をやすい数千円の線虫による尿検査にして、必要な人だけ、高いお金で高度な検査を行うということになっていくのではないでしょうか。
また、日本はがん患者さんも、がんでの死亡者数も欧米諸国に比べてはるかに多い。それは、欧米諸国と比べて、日本のがん検診の受診率がグーンと低いからです。欧米諸国が60%~80%に達しているのに、日本は40%程度です。ここは大きな問題でしょう。このような検査が行われるようになると、受診率はアップするだろう、と推測されています。血液1滴での検査は、今年はあくまで実証試験です。