■人には“牧場を経営したい欲”がある
「マイゲーム・マイライフ」は毎回、一人のゲストに2週連続で出演してもらっています。そのため、収録は2回分を一気に録ることになるのですが、前回と今回のゲストである古川未鈴さん(でんぱ組.inc)は収録の合間ですらスタジオ内で延々とゲームの話をしていたようです。
宇多丸「放送分の話だけでも尺オーバーしているのに、(前編と後編の収録の)合間の時間もまだゲームの話をしているという……」
と、宇多丸さんはこんなことをこぼしながらトークを始めました。そんなわけですから、とんでもない数のゲームをやってきた未鈴さんの口から“マイベストゲーム”の一つとして「牧場物語」シリーズが挙げられたときは感動を覚えました。ほかにも、「ファイナルファンタジーX」や「Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ ドーン)」、「オーバーウォッチ」などの話もしていたのですが、この放送後記では敢えて「牧場物語」についてをピックアップします。なぜなら、私が好きだから。
この『牧場物語』、結構地味な作業をひたすら繰り返すゲームでして、ゲームの戦略性があるわけでもなし、アクションというわけでもなし、多少のストーリーはあれどさほど深いものではない、とヘビーなゲーマーにウケるのかといったら微妙なところなのです。
未鈴「荒れ果てた牧場にポーンと一人、投げ出されて、この牧場を再建してくれってところから始まって、草むしりから始まって、耕して、裏山に木の実を採りに行って、出荷して、カブを作って、コの字型に畑を耕して、その間に入ってスプリンクラーをやって、牛を飼って、牧草育てて、売り上げを立てていくゲームです」
宇多丸「シミュレーションゲーム?」
未鈴「そうです」
宇多丸「未鈴ねえさん、地味めなの嫌いだって言っていたじゃないですか。めっちゃ地味じゃないですか、それ」
未鈴「地味です。やってることは地味なんですけど、『牧場物語』に関しては、牧場を経営したい欲があったんでしょうね、もともと」
“牧場を経営したい欲”って何なんだ、という感じですが、実際そうなのです。人には、潜在的に牧場を経営したい欲があるのです。私は中学生の頃、放課後に毎日5時間、土日は1日12時間も「牧場物語」(ゲームボーイ版)をプレイする“牧場物語廃人”でした。周りでやっている人を一人も見たことがなかったのですが、大人になってからミクシィで「サンシャイン牧場」が大流行した際、「ホレみたことか」と思ったものです。「牧場物語」をやってこなかった人も、ミクシィという手軽なSNSの中に牧場のゲームが登場したことで、まんまと“牧場を経営したい欲”が刺激されたというわけです。なお、私は「牧場物語」の経験から、牧場ゲーに手を出すと廃人化して仕事が手につかなくなることは目に見えたため、「サンシャイン牧場」には手を出さずに済みました。何事も小さい頃に経験しておくものですね。
■なぜこんなにも中毒性があるのか? 牧場ゲーが面白い3つの理由
“牧場を経営したい欲”というのは何なのか、というのをもう少し細かく考察すると、おそらく3つの要素があるかと思われます。
一つは、牛や作物といった大自然への憧れ。普通じゃなかなかできないし、本当に牧場の仕事をしろ、と言われたらべらぼうに大変なことはわかっていながらも、ゲームの中ならその憧れをお手軽に満たせるところがいいのでしょう。未鈴さんが「牧場物語」にハマった理由もこれでした。
もう一つは、タスク処理をする快感を味わえること。牧場ゲーはとにかくタスクを処理していくゲームです。草むしりをして畑を耕し、種をまき、水をやり、牛に餌をやる。こういったタスクを淡々と十字キーとAボタンだけでこなしていきます。しかも、牧場は広く、ゲームの中での一日の時間は非常に短いため、もたもたしていたら終わりません。その日のうちに毎日のタスクが終わるように、猛スピードで牧場じゅうを駆け回るのです。仕事などでも、猛スピードでタスクを処理している時間って結構ランナーズハイのような快感がありませんか? それです。その快感と似たものが「牧場物語」にはあるのです。
そしてもう一つ。毎日水をまいてようやく作物が実ったときの感動と達成感。作物がキラキラとした様子で実っている絵面はもちろん、収穫するときの“ボコッ”といったなんともいえない良い感じのSE。この瞬間が最高なのです。牛の場合は、毎日欠かさず餌やりやブラッシングをしていると、搾れるミルクの量がどんどん増えていきます。牛がニコニコ笑いながら、特大サイズのミルクを初めて搾らせてくれた瞬間、これまた何にも代えがたい感動があるのです。
未鈴さんはPSVRの話になった際に、「牧場物語」のようなゲームがVRでできたら面白いんじゃないか、と言っていました。これは最高の組み合わせかもしれません。水をまいている感覚や、作物を触って収穫している感覚が味わえるとなると、どうなってしまうのでしょう。VRで1日10時間以上、作物を収穫し続ける廃人になってしまったら……と思うと今から恐ろしいです。
■今回のピックアップ・フレーズ
未鈴「まだディアステージでアルバイトをしていたときに、あらかじめこの日がモンハンの発売日だってわかっていたから、一週間シフトを入れないことがありました。私、モンハンやるのでモンハン休暇取ります、って」
宇多丸「モンハンやる人はそういうこと言いますよね。僕の友人で鉄平くんという名古屋でDJをやっている人がいるんですけど、モンハン好きで。モンハンの新しいのが出る、ってわかっているときに、当時付き合っていた彼女に、……すんごいかわいい彼女なんですよ? その彼女に、『モンハンが出るから3か月別れてくれ』って」
文/朝井麻由美(ライター、コラムニスト)