夏に流行する病気のひとつに「とびひ」があります。蚊に刺されたりして、掻きむしると、いつのまにかとびひになってしまうことがあります。そのとびひは、子どもの頃にかかったという人もいるかもしれません。そのため、子どもの病気というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実は、大人でもかかることがあります。皮膚の病気だから大したことはないと放っておくと、全身の病気へと進行してしまうこともあります。また、感染力が強く、人にうつったりすることもあるのです。そこで、とびひの治療法や対処法について8月14日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。
★とびひという病気
とびひは、細菌による皮膚の感染症です。虫に刺されてかきむしったりして、傷口などが感染を起こして、ジュクジュクしたり、膿が出るようになった状態です。そのジュクジュクした赤い点々が、全身に広がる病気です。
なぜとびひと呼ばれるか、ということですが、火事の飛び火のようにあっという間に、周囲の皮膚に移り、いつの間にか湿疹が広い範囲に広がっていることがあるからです。あせもになったり、虫刺されを掻きむしったりするだけで、とびひになることはありません。掻きむしった傷口から細菌が入り込むことによってとびひを発症します。
傷口から入り、とびひの原因となる菌は、主に2つです。1つは「黄色ブドウ球菌」、もう1つは、「化膿レンサ球菌」です。
黄色ブドウ球菌は、健康な人の皮膚の表面や鼻の中にいる菌で人の体に常に在る菌、常在菌です。普段は特に悪さをする細菌ではないのですが、虫刺されで掻きむしったりしてできた傷口から、黄色ブドウ球菌が皮膚に入り混むことによって、とびひを発症するのです。子どものとびひの多くは、この細菌が原因です。
化膿レンサ球菌は、「溶レン菌」とも呼ばれます。健康な人の鼻の中やのどにいる菌で、こちらも人の体に常に在る菌、常在菌です。傷口などから皮膚に入り込むと、とびひ発症の原因になります。そんなとびひには2種類あって、水疱ができるものと、膿の水ぶくれやかさぶたができるものがあります。水疱ができるタイプは子供に多く、梅雨から夏場に流行します。もう一方は大人によく見られ、一年中みまれます。
★症状が出るのか?
水疱ができるタイプは「薄い透明な膜に覆われた水疱」ができます。直径1~2ミリ程度の小さな水疱を放置していると、指の頭くらいの大きさまで膨らんで破れます。目や口の周辺、鼻などから発症して全身に広がることがあります。
一方、大人でもかかる、膿の水ぶくれやかさぶたができるタイプのとびひは小さい水疱や、膿の水ぶくれから始まって、すぐに黄色っぽいかさぶたに変わります。膿の水ぶくれやかさぶたの周りに赤みが出たり、熱が出たり喉が痛くなったり、また、リンパ節が腫れることもあります。とひびができる場所は、顔や手足といった露出している部分にできることが多くて、これがどんどん広がっていきます。
★人にうつることも
人にうつることもあります。とびひ自体がどんどん感染していくわけではありませんが、とびひになっている部分や潰れた水疱から出た膿には原因となる細菌が含まれています。そのため、それらを触った手で、別の傷口を触ってしまうと、そこからまた細菌が入り、とびひが広がっていきます。
ただ、とびひは放っておくと全身の症状に発展することもあります。掻きむしることで傷が広がり、深くなると、今度は血液中に細菌が入り込み、血液の流れに乗ってあっという間に全身の血液に広がります。すると、いわゆる「敗血症」と呼ばれる状態になって、全身が細菌に感染した危険な状態です。この場合はすぐ入院するような事態になる可能性もあります。そのため、甘くみないで酷くなる前に皮膚科もしくは小児科を受診して下さい。
★どのように治療するのか
基本的には、薬で治療します。とびひは、傷の大きさやジュクジュクしている部位により、内服薬として抗生物質や、塗り薬が処方されます。かゆみがひどい時には、かゆみ止めのヒスタミン剤が処方されることがあります。特に飲み薬は、症状が軽くなったからと自己判断でやめないことが大切です。
治療の間は、症状の程度にかかわらず、患部全体を清潔なガーゼなどで覆って感染源となる皮膚組織や体液などが飛び散るのを防ぐようにします。また、患部を清潔に保つために病変部位は洗っても構いません。毎日シャワーを浴び、ガーゼを交換することが大切です。治るまでに1週間から10日といわれています。
★予防方法は?
とびひの基本的な予防の考えは皮膚にできるだけ傷をつけないこと、清潔にすることです。毎日、お風呂に入ったりシャワーを浴びて、体を清潔な状態にしておくことも予防法です。
虫刺されや、すり傷はきちんと治療して、掻かないようにして下さい。また掻きむしって皮膚を傷をつけないために爪を短く切ることも大切です。
また、人にうつるということで、感染しないように気をつけることも必要です。入浴する場合、水を介してうつることはありませんが、できるだけ最後に入浴しましょう。またタオルや寝具を共用することも避けましょう。また、手洗いをよく行うことも基本です。簡単なことで、そんなことか、と思われるかもしれませんが、こうした細かいことに気をつけることが予防になります。
伝染する病気となると、学校や仕事に行っていいのかどうか、迷うかもしれません。とびひは、学校保健安全法という法律で「第三種。その他の感染症」とされます。病院で治療して、患部をガーゼや包帯で覆っていれば、登校できます。しかし、多発していたり、広範囲の場合は休むほうがよいでしょう。
![日本全国8時です(松井宏夫)]()
解説:医学ジャーナリスト松井宏夫