骨粗しょう症は、骨がスカスカになってもろくなり、骨折を起こしやすくなる病気です。骨粗しょう症の、予防と治療の一つは薬ですが、最近では効果が高い薬が増える一方で、副作用の報告も増えています。骨粗しょう症と薬について。7月17日(月)の松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。
★骨の密度と構造が関係
まず、骨粗しょう症の人は、骨で何が起きているのかということからお話します。人間の骨は毎日、新陳代謝を繰り返しています。正常な場合、古くなった骨は破壊され新しい骨を形成するバランスが保たれています。骨は常に作り替えられ、丈夫な骨が維持されています。しかし、骨粗しょう症だと、このバランスが崩れ、骨の形成よりも骨の破壊が進みます。すると「骨の密度」が低下して骨折リスクが高まる、これが、骨の弱まる第一の原因です。また、カルシウムなどをコラーゲンがつなぎ合わせることで「骨の構造」が保たれています。コラーゲンなどの働きが低下し、骨の質が劣化することも、骨を弱くする要因となります。
★高齢女性に多い
日本の骨粗しょう症患者は、推定で1千万人を超えると言われます。特に閉経後の女性ホルモンの急激な減少で骨の破壊が進むこともあり、女性に多い。75歳以上の高齢女性の2人に1人は、骨粗しょう症とも言われます。女性の寝たきりの第一は「骨折・転倒」で、その最大の要因が骨粗しょう症です。もちろん男性でも、老化とともに骨の強度は低下し、骨粗しょう症になりやすくなります。
★日本人は背骨が骨折しやすい!?
また、骨粗しょう症によって、骨折が起きやすい場所は、体型によって変わります。日本人は欧米人に比べて、背骨が骨折しやすい、という傾向があります。背骨は24個の椎骨でできていて、骨粗しょう症になると一部が圧迫されて骨折します。中には、骨折しても自覚症状がない人も多く、そういう人は、いつの間にか若いころに比べて気づかぬうちに身長が低くなっています。若いころに比べて身長が4cmくらい、低くなって背中が丸くなっている人は、骨粗しょう症で、背骨の一部が圧迫骨折している、可能性があります。
★薬が必要な判断は!?
また、背骨の圧迫骨折後に、太ももの付け根も骨折することも多く、連続して起こる骨折を骨折連鎖といいます。そうした骨折のリスクが一定以上、高くなると、薬による治療を行っていきます。骨粗しょう症の治療の目的は、骨折を予防することです。判断基準は22歳から40歳の若年成人の平均に対して、骨密度が70%以下かどうか。今ではたくさんの薬があり、患者さんの骨折の危険性、年齢、ライフスタイルなどに合わせて使う薬を選んでいきます。その中でも、骨の破壊を抑える薬で、良く使われる「ビスホスホネート製剤」と、最新の薬で「デノスマブ」という薬があります。
★代表的な2つの薬
ビスホスホネート製剤は、いま一番多く使われている薬で、骨折も、背骨で4~5割、大腿骨の付け根などの手足の骨で2~3割減らすことがわかっています。ビスホスネート製剤の中にもたくさん種類があって、毎日服用するタイプのほか、週1回や月1回服用するタイプも出ています。さらに新しい薬で、半年に1回、病院で注射する「デノスマブ」という薬も出てきています。こちらは、骨密度を高める効果が高く、骨密度が低い、重症の人に使われるものです。骨密度が平均的に3年で8%、8年で13%といった具合に伸び続ける結果も出ています。
★あごの骨が壊死する事例が増えている
ただ、今専門家たちが、注意を呼び掛けているのが、これらの薬の副作用です。どんな副作用かというと、あごの骨が壊死してしまう、というものです。2006年からの3年間で、263例だったのが、2011年からの3年間では、4797例、およそ18倍に、急増しています。高齢化で、ビスホスホネート製剤を使う人が増え、報告件数も増えたとみられます。薬を使用する人全体に占める割合では、ごくまれ、と言うレベルではありますが、注意が必要です。「デノスマブ」でも、同様の副作用は、報告されています。
★なぜ壊死するのか?
あごの骨の壊死は、下あごや上あごの骨が細菌に感染し腐ってしまう病気です。正確な原因はわかっていませんが、骨の破壊を抑える薬を使っている人は、歯を抜く抜歯や、インプラントの傷口、虫歯、歯周病から、細菌に感染しやすくなります。感染すると、粘膜に穴が開き、壊死したあごの骨が、露出してきます。強い痛みで食事も難しくなります。あごの骨が壊死すると、それに対しての、治療法はありません。症状が進むと壊死した骨をかきだすか、あごの骨の一部を切除する必要もあります。また、そもそも命に関わる病気の、骨粗しょう症に使う薬です。だから、やめるのは難しく、やめたとしてもあごの骨の症状が改善するとは限りません。
★副作用への対策は?
このような副作用があるので、骨粗しょう症の薬の治療を受けるとき、まずは歯医者で虫歯などの治療をすべて終了させます。それから2週間以上経ってからビスホスホネート製剤などを使う必要があります。また薬の服用中に、あごの骨の壊死が起きても、処置が早ければ治る可能性が高まります。軽症であれば、傷口の穴を洗ったり、菌をやっつける薬を使って治まることもあります。新しい治療として再生医療や酸素カプセルに入る高圧酸素療法などが検討されていますが、根本的な治療は見つかっていないので、副作用を知って、口の中をキレイに保ちましょう。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫