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Channel: 放送後記 – TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~
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「注射の痛み」を減らす最新医療

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注射の痛みはイヤだという人も多いのに、日本では、注射の痛みは我慢するものという傾向にあります。特に一日何度も注射を打つ必要がある、糖尿病など患者さんにとっては大変辛いものです。そんな中、いま医療の現場では、注射の痛みを減らす方法が登場していて、痛みが消える時代も近いかも?

注射の痛みを減らす医療について。12月11日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で解説しました。

★注射の痛みはどうして起きるの?

まず、そもそも注射の痛みが起きるのはどうしてか?というところから、お話します。皮膚の表面には、痛みを感じる点「痛点」が、1㎠当たり百~2百個、分布しています。つまり1ミリ四方におよそ2個ですが、その痛点に、注射の針が当たると痛いと感じます。ですから、注射針をできるだけ細くして、痛点に針が物理的な当たらないようにすれば、痛みは減ることになります。

★針は細くなっている!

インフルエンザなどの予防接種に使う注射針の太さは、一般には直径0・8ミリです。1ミリ四方に痛点が2個なので、0・8ミリの針では、痛点を避けるのは難しいです。

そこで毎日何回も注射する糖尿病患者などに向けて開発されたのが、今、一番細いとされている、直径0・18ミリの注射針です。医療機器メーカーのテルモと、東京隅田区の金属加工会社・岡野工業が、5年前、2012年に発売し始めたものです。それまで一番細かった注射針も、テルモと岡野工業が2005年に開発した0・2ミリただ細くすれば良いだけではなく、針の強度を維持しつつ、薬剤も通さないといけません。そのため、そこから7年かけて、0・02ミリ細い、0・18ミリの針を完成させました。ちなみに、この針は、ただ細いだけではなく、先端も鋭く加工されています。こうして、1ミリ四方に2個ある痛点を、限りなく刺激しない針にしたようです。

★針なしの注射器?

次に登場したのが、「針を使わない」注射器です。本社富山の樹脂製造会社・タカギセイコーと、アメリカの医療機器メーカーが、来年1月に本格的な生産を始めるもので、その注射器は、薬剤を、高圧、高速で「噴射」します。注射器先端のノズルは、直径0・18ミリで、そこからマイクロレベルの気泡の力で噴射。4マイクロ=0・004ミリで、細胞に穴を空けることができるため、細胞へのダメージも少なく、針より痛みも少ない。痛点は、1ミリ四方に2個ですが、こちらは4マイクロ=1ミリの250分の1

★糖尿病患者にとって必要な技術

医療の世界で、こうした注射器の改良が進む背景ですが、改良は、世界におよそ3億6千万人いるとされる糖尿病患者を、目的としたものです。生まれつき、自分の身体の中でインスリンを作ることができない、1型糖尿病の人は、生涯に渡って、自分で毎日、3回の注射を続ける必要があります。数十年自己注射を続けている人ですら、針が痛点に当たると、すごく「痛い」と訴えます。細い針の注射と噴射の注射は、皮膚表面から、比較的浅い部分に注射する、糖尿病患者さんのインスリン注射を、助けるには期待のもてる技術だと思います。

★エムラクリームって?

皮膚の表面から浅い部分に注射する場合は、だいぶ改善されてきました。しかしその一方で、薬剤を皮膚から深い所まで、注射しないといけないものもあります。そんな注射の痛みについては、患者自身で麻酔をかけて、軽減する方法が出てきました。麻酔をかけるために、注射を打つのではなく、クリームを塗ります。佐藤製薬が5年前に発売を始めた「エムラクリーム」というものです。クリームを、注射するところに塗ってから、60分もすると、その成分が皮膚からしみこんで、「麻酔」の効果を発揮します。ただ、このクリームは空気に触れると、効果が減ってしまうので、透明なフイルムなどでラップして、テープを貼って密封する必要がありました。

★パッチ状に進化

結構面倒ではあったんですが、最近では、より使い易い形に、改良されています。今週水曜日に発売されるもので、湿布のような形をした「エムラパッチ」というものです。エムラパッチには、エムラクリームの薬液が予めついています。ただ麻酔の効果が出るまで60分待つのは変わりません。このあたり改良されれば、インフルエンザ予防接種などでも使われる日が来ると思います。

★小児がんの辛い注射

エムラパッチの前身、エムラクリームは、透析の患者さんなどで使われていました。エムラパッチでは、さらに、白血病などの小児がんの子供たちへの利用が想定されます。白血病の場合、がん細胞が髄液に入り込んでいないかどうか、調べるために、背中から腰に針を刺して、骨と骨の間にまで、針を深く刺す必要があります。そうやって、脊髄のまわりの髄液に、がん細胞が入り込んでいないかどうか、調べます。長いと1年位の入院期間で、何度もこうした痛みを伴う検査を繰り返す必要があります。こうした「痛み」が難しいのは、本人しかわからない主観的な体験です。

★痛みのトラウマを無くすために

特に生まれて間もない赤ちゃんは、自分の痛みを訴えられないですし、医療の世界では、実は30年ほど前まで、赤ちゃんは痛みを感じないと、思われていた時代もありました。かつて全身麻酔の麻酔薬の中に睡眠剤は入っていても、鎮痛剤が入っていませんでした。ただ、麻酔で眠っていても、痛みのトラウマの信号は、末梢神経を走って脊髄に入り、脳や中枢神経に確実に伝わっていることが、心拍数の変化などからわかっています。つまり、寝ていても痛いものは、痛いのです。小児がんのお子さんなどには、エムラパッチなどで注射の痛みを減らしてあげたいです。

 

 

日本全国8時です(松井宏夫)

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫

 

松井宏夫の日本全国8時です(リンクは1週間のみ有効)http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20171211080000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)


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