寒暖差が激しい日が続いている影響もあり風邪が流行っています。その風邪の治し方について、間違った考えを持っている人が多く、問題になっています。それは「抗生物質」についての考え方です。ここを間違えると、効果がないだけでなく、別の悪影響を引き起こすので注意が必要です。
そこで、12月10日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、間違った風邪の治し方について、抗生物質に注目して説明しました。
★風邪についての基本
まずは、基本的なところですが、風邪についてお話します。なぜ風邪をひくのか?その原因は、90%以上は、ウイルスが原因とされています。コロナウイルス、ライノウイルスや、アデノウイルスなどが主な原因ウイルスです。
このウイルスのついての風邪について、特効薬は何かとなると…実は特効薬はありません!ここが問題なのですが、時々、「風邪をひいたから、病院で抗生物質を出してもらった」とか「風邪をひいたから、点滴してもらったら、一発で治った」とか言う人がいると思います。残念ながら、これはほとんどが間違いです。ウイルスには、効果のある特効薬はありません!
まず風邪薬ですが、喉の痛みを和らげたり、咳を抑えたりなど、対処療法のためのものです。風邪のウイルスそのものをやっつける、という薬ではありません。
そして点滴について見てみると、風邪の時に点滴する場合、それは、水分補給とビタミン補給程度と言われています。その代表的な点滴薬の1つをみてみると、濃度こそ違いますが、成分はほとんどポカリスエットと同じだったりします。風邪で脱水症状になったら効果がありますが、自分で水分補給できるなら必要ありません。「風邪だから点滴を打って」という患者さんがいるようですが、点滴は、医師が必要と判断した時だけで十分です。
★抗生物質は風邪には効かない!
抗生物質も、風邪のウイルスには効きません。抗生物質は、抗菌薬と呼ばれ、細菌が増えないように倒す薬であって、細菌よりはるかに小さく、構造も異なるウイルスには抗生物質は効かないのです。
問題は、それでも多くの方が、風邪に「抗生物質」が効く、と勘違いをしていることです。国立国際医療研究センターが今年2月に行った患者調査によると、「抗生物質は風邪をひいたときに効果がある」と思っている人が43・8%にも及びました。さらに「風邪のとき抗生物質を処方してくれる医師は良い医師」と思っている人は33・3%も。
なぜ勘違いしている人が多いのかというと、1つは、抗生物質のこれまでの功績にあるかもしれません。抗生物質の開発がさかんに進められていた頃、多くの新薬が細菌感染症を治してきました。こうしたことから「抗生物質はどんな感染症にも効く」というイメージができたと思います。
もう1つは、風邪と肺炎との関係です。風邪をこじらせると細菌感染を引き起こし、肺炎を発症するケースもあります。その際には、原因が細菌なので、治療には抗生物質が必要になります。ところが、昔は肺炎の治療ではなく予防にも、医者が抗生物質を使っていた事もあります。実際は、抗生物質では、肺炎の予防効果はないことが明らかになっていますが、医者の間でも、昔の間違った認識で抗生物質が使われていることもあるようです。
★薬剤耐性菌とは?
ここで問題なのは、抗生物質が風邪に効かないだけではなく、別の問題を起こす事です。それが、抗生物質の不適切な服用による「薬剤耐性菌」です。薬剤耐性菌とは、簡単にいうと、薬に対して抵抗性を備えてしまった細菌のことです。風邪とは別に、体の中に残っていた細菌が、抗生物質を使っているうちに、細菌が生き残るために自らの遺伝子を変異させてしまうことがあるんです。こうなると、現在、存在する抗生物質ではやっつけられない細菌となるので危険です。
★世界的にも問題になっている
そんな薬剤耐性菌のまん延については、世界レベルで対策が求められています。背景には、耐性菌によって亡くなる人の数があります。耐性菌によって亡くなる人は、世界で年間70万人と推定され、2050年には1000万人になるという予測もあります。
こうしたことを受けてWHO=世界保健機関では2015年に抗生物質の使用を減らす計画が採択され、それを受けて日本でもおととし「薬剤耐性対策計画」を策定しました。さらに厚生労働省は去年6月、抗生物質などについての適正使用の手引きを発行し、風邪には「抗菌薬投与を行わないことを推奨する」としました。風邪などの抗生物質が効かない病気に抗生物質を乱用していると、肝心なときに薬が効かなくなってしまうからです。
★医者も抗生物質を処方してしまう
ただ、こうしたことがあるにも関わらず、いまだに医師が患者さんの要望を受けて、抗生物質を処方している実態があります。日本化学療法学会が行った調査では「風邪の患者さんが抗生物質を希望した場合」「説明しても納得しなければ処方する」と答えた医師が最も多く50・4%に上り、「希望通り処方する」も12・7%、いました。正しい対応である「説明して処方しない」は32・9%に留まっています。
もちろん、抗生物質が全く必要ない、というわけではありません。抗生物質は、風邪が悪化し、細菌から肺炎を発症した際には重要な役割を果たします。そうした肝心なときに効果的に機能するためにも、不要なときの使用は控える必要があります。肝心な時に効かなくなって危険です。必要な時だけ使うよう、医師と相談して下さい。
日本は国民皆保険なので、治療費の負担が少なく、なんでも薬を欲しがる傾向があります。無駄な薬は求めないためにも、薬への知識を広める必要があります。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫