最近、飲食店で使える画期的なAIシステムが開発され、話題になっています。いったいどんなものなのでしょうか?12月12日(水)の「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)「現場にアタック」のコーナーで、近堂かおりが取材報告しました!
★「来客予測」始めました!
飲食店で使うAIシステムとはどんなものなのでしょうか?開発した三重県伊勢市の飲食店『ゑびや』の代表取締役・小田島春樹さんに伺いました。
- 小田島春樹さん
- 「「明日何名来る」という来客予測を始めました。例えば今日でしたら、まだ営業前ですけど、158名のお客様が来店されるというのが事前に出ていて、時間帯別に、11時は42名、お昼49名、13時だったら…という形で、時間帯別も事前にわかります。一応、昨日どうだったかというと、昨日が236名の予測に対して、実際にきたお客さんが225名だったんですね。誤差としては11名くらいで、予想の的中率95・3%というところ。これを導入する以前と、以降とでは、売上が、5倍ほど、伸びました」
お客さんが、何時に何人来るか、予想できちゃう?なんてびっくり!

これがAI来客予測「タッチポイントBI」のサンプル画面。タブレットで簡単!
これは、AIを使ったデータ分析。天気や気温など客観的データはもちろん、ポスレジから取れる来客実績や何を食べたのか、さらに店舗に設置されたカメラなどの画像解析で、来客者の世代、性別、滞在時間、さらにはお店の外の通行人についても、様々なデータを蓄積、分析することで、精度の高い来客予想ができるそうです。
取材前日の的中率は95・3%、また取材時点では結果が出ていなかったこの日についても、的中率は95・6%!100%の日もあり、年間通しても92%以上の的中率という、すごい結果を出しています。人間の勘や経験では80%に届かないということなので、大きいですね。
また、予測は「何時に何人来るか」だけではなく、「その時間にどのメニューがどれだけ出るか」も予想できるそうです!

来客予測、メニュー予測、他にも様々な分析メニューが・・
★売上げアップだけじゃない!来客予測の効果とは
では来客予想ができると何がどうなるのか?具体的な効果を小田島さんに伺いました。
- 小田島春樹さん
- 「厨房の方では何のメニューがどれくらい出るかわかっているので、じゃぁ、海鮮丼が25食出るなら25食分、準備すれば、無駄なロスもなく、軽減されるというところにつなげています。飲食店だとお米を切らせてしまうと、いったんのれんを下げなければいけないんですね。次の米が炊けるまで40分かかるので。だから大体のお店は米を余分に炊いておくパターンが多いんですよ。でも予測がある程度の精度で出るのなら、予測に基づいて米の炊飯量もわかるので、もともと、この仕組みを導入する前は、大体1日平均で6升くらい余していたんですけど、今はだいたい1・5升位の残量にできますので、ロスに関しても75%くらいの削減につながったと。」
飲食店については、「フードロス」と「人手不足」というのが、最近のキーワードですが、来客予想ができることで、フードロス削減に加え、人も混雑に合わせて動けます。
例えば、来客が少ない予想の時間は、フロアの人数を減らして、新メニューの開発に当てる、など効率的な計画が立てられるというわけです。
また年間の暇な時期も予想できるので、『ゑびや』では有休休暇の取得も進んでいる、ということでした。これは、このシステムを使いたい!というお店が多いのではないでしょうか?
★『ゑびや』以外でも効果アリ!!
この『ゑびや』は伊勢神宮から徒歩1分のところにある、創業100年を超える老舗食堂。小田島さんは、奥さんの実家を継ぐ形で、6年前に『ゑびや』に入ったそうですが、当時の『ゑびや』は、そろばんと食券、手書きのノートという状態・・・そこから、ここまでIT化したそうです。しかも、この効果!!

伊勢の老舗食堂「ゑびや」の小田島春樹さん。「AI来客予測」などの店舗経営ツール提供会社「EBILAB」を立ち上げました
そこで、小田島さんはこの成功を受けて、新会社『EBILAB(エビラボ)』を設立、このシステムを「タッチポイントBI(ビジネスインテリジェンス)」と名付けて、売り出しました。
でも、伊勢神宮の目の前の飲食店のために開発したシステムは、ほかの地域でも使えるのでしょうか?導入しているお店に聞きました。神奈川で『里のうどん』をチェーン展開する会社、ワンオータスの社長・西嶋芳生さんのお話です。
- 西嶋芳生さん
- 「最初はデータを入れていかなきゃいけないんで、よくわからなかったんですけど、使っていくうちに結果もでてきたので、これはすごいなと感動しています。今年5月10日に藤沢市の「テラスモール湘南」のフードコートに新しく出店したんですけど、フードコートに食事する所が8店舗あって、売り上げで、うちはずっと6位、ほとんど動かないんですよ、店舗の順位って。それがBI使って、その時間、男性が多いのか女性が多いのかなど、その人たちに合わせた商品を作っていこうって、さらに画像解析でその満足度、笑顔なのか怒ってるのかも計算しているので、こういう料理が食べたいというのを少しずつ変えていったら、売り上げが伸びて、うちが4位に変わっていました。他は変わっていないです。」
もちろん、伊勢の『ゑびや』のデータは使えませんから、このお店のデータを蓄積する必要があります。ただ、お客さんの傾向や動き、美味しいと思っているのかどうかまで可視化するので、それに合わせてメニューを開発していったところ、他の飲食店が変化がない中、唯一、売上を伸ばすことができたのです。

藤沢で人気の「里のうどん」このメニューをAIでどう改革したのか・・ (「里のうどん」公式HPより)
ちなみに、『エビラボ』のシステムですが、1日あたり「地域の最低賃金の時給」で提供するのが目標ということで、月額はおよそ2~2万8千円。年間一括払いなら2ヶ月分安くなるということ。初期費用は30万円ほどかかりますが、それ以上、売上が上がれば元は取れそうです。
実はこうした「飲食店向け来客予想・データ分析」は、開発が広がり始めています。『エビラボ』以外にも、『CSーC』『ROX』など、ITを使ったサービス会社がAI来客予測を開発、この2~3ヶ月で増えてきています。
★AI店長、ありがたいいい店長が入ったな~
こうなると飲食店のAI活用がどんどん広がっていきそうですが・・・その導入について、里のうどんの西嶋さんによると、もう一つ大きな変化があったといいます。
- 西嶋芳生さん
- 「代表者が言うことって、ずっと経験と勘だったから”これやりなよ”なんて言っても全然信用されないじゃないですか。どこもそうじゃないですかね。上司が「これはさ~」なんて言っても、当たる時もあれば、当たらないだろうって、信用されないこともあると思うんですけど、うちはBIがあるんで、ある種、社長さん、というか、決定権があるみたいな感じで、誰も「それはそうだな」って結果が出るので間違えないし、それを、会議でバンバン使用して信用してもらってますね。誰も文句言えないですよね。ありがたいいい店長が入ったなと思って、助かってます。AI店長いいですよ!眠くならないし、怒ったりしないし(笑)」
お店をよくしていこう!と思っても、問題認識やアイデアはバラバラ。たとえば「若い人が多い」といっても、その若い人のイメージは、人によってばらばらですし・・・その溝を、AIデータの説得力で埋めることで、共通認識ができて、チームワークが良くなって、効率的に改善できるという面もあるそうです。
『EBILAB』の小田島さんも、「出てきたデータを使って変えていくのは人間にしかできないですからね」と話していましたが、『里のうどん』の西嶋さんも「AIと人間で共存していきたい」と話していました。