インフルエンザが全国的に大流行しています。厚生労働省が1月25日、金曜日に発表したところでは、すべての都道府県で警報レベルを超えたということです。また、直近1週間の1医療機関あたりの平均患者数は、統計を取り始めた1999年以降、最も多かった去年2月に次いで、2番目に多いということ。このまま増えれば、過去最悪の流行という可能性も出てきてしまいました。こうした中、インフルエンザに感染して亡くなる方も相次いでいます。
そこで、1月28日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、改めて、インフルエンザの注意点や治療についてお伝えしました。
★発熱しないケースもある
インフルエンザの典型的な症状は、38度以上の高熱、関節痛、筋肉痛、頭痛、そして咳、鼻水、喉の痛み、など全身症状となります。こうした症状の時は、とにかく病院へ行ってください、というわけですが、問題は、熱がさほど高く上がらず、咳、鼻水、喉の痛みだけの時もあることです。特に、予防接種を受けている場合は、発症しても重症になりにくいのです。
そこで「ただの風邪」と思って、学校、会社に行っているうちに、どんどんウイルスをばらまいて、流行を広げてしまう、ということがあります。これだけ流行している以上、「ただの風邪」と決めつけずに、早めに医者へ行きましょう。
★ゾフルーザは無敵じゃない
そして病院での治療はどうなるのか?ですが、まず、今年注目は、新しく使われ始めたインフルエンザの特効薬「ゾフルーザ」です。去年、番組でも取り上げましたが、タミフルより即効性がある、として話題です。タミフルは、1日2回、5日間、飲み続けなければいけないのですが、このゾフルーザは、1回飲むだけで、すぐに効果が出るのです。ゾフルーザは、ウイルスが消える時間が、タミフルの3倍早いという結果も出ています。
というわけで、誰もが使いたくなるゾフルーザですが、注意も必要です。前回の放送でも指摘しましたが、新薬なので、まだ見つかっていない副作用が出る可能性。体に異変があった場合、すぐに医師に相談することを、忘れないでください。それからもう1つ、新しい問題点も指摘されています。国立感染症研究所が先週、ゾフルーザを使った患者さんから、治療薬が効かなくなるように変化したウイルスが見つかったと発表しました。
薬が効かないウイルスが増えては元も子もないので、ゾフルーザを使うべきかどうか、これはお医者さんのアドバイスに従っていただければと思います。
★3つの薬からチョイス
ゾフルーザは1回だけ、タミフルは1日2回を5日間、ですが、他の薬もあります。イナビル、という薬で、粉末を吸い込む「吸引型」の薬ですが、こちらも1回で済みます。ただ、容器の使い方、吸い込み方にコツが必要なので、病院でアドバイスに従って使う方がいいでしょう。
ちなみに、タミフルは中外製薬、ゾフルーザはシオノギ製薬、イナビルは第一三共が販売。メーカーもしのぎを削って進化していますが、効果はウイルスの種類によっても一長一短です。お医者さんと相談して合う薬を使ってください。
★こどもは異常行動に注意
インフルエンザのニュースで気になったのは異常行動です。埼玉県鶴ケ島市で今月、インフルエンザで学校を休んでいた小学6年の男児が、自宅マンションの3階から転落する事故がありました。不幸中の幸いで、軽症で命は無事だったのですが、こうした転落は過去もありました。
2007年、中学生がタミフルを服用後にマンションから転落死する事故が起きました。こうした異常行動は、かつては、タミフルとの関連が疑われていました。しかし、去年5月、厚生労働省は、研究結果として、正式に、「異常行動とタミフルの服用の因果関係は認められない」と発表しました。
この発表のポイントは、タミフルを含め、インフルエンザ治療薬の種類や服用の有無によらず、インフルエンザでは、異常行動が起こりうる、ということです。実際に、薬を飲んでいないのに異常行動が出たという報告も多く見られます。異常行動は就学前の子供や未成年の男性で、発熱から2日以内に起こることが多いそうです。インフルでは、1階か、玄関や窓を施錠してベランダのない部屋で寝かせるのがいいでしょう。
★今から予防注射は間に合う?
問題は、インフルエンザにかからないようにするにはどうしたらいいか。インフルエンザの予防の一番は、ワクチンの予防接種ですが、今から打つべきかどうか。予防接種は、注射してから2週間後から免疫が出来始め、1〜2か月後に免疫力がピークになります。そういう意味では、12月の始めまでに打っておくのがベストでしたが。ただ、インフルエンザは2月以降も感染が続きます。受験など、大きなイベントが2月3月にある方は、お医者さんと相談してみてください。
★身近な予防方法は?
手洗い、アルコール消毒、そしてマスクは基本ですが、最近、ネットで話題なのは紅茶です。検索すると、ペットボトルの紅茶で人気のメーカーや、ティーバッグのメーカーの研究機関が「紅茶でインフル予防」と、大々的に発表しています。メーカーの名前が出てくると、ちょっと「宣伝か?」と警戒してしまいますが・・・
実はこれについては、話題になるずいぶん前に私は取材したことがあります。昭和大学医学部の島村忠勝教授の研究チームで、ポリフェノールの一種が、ウイルスを感染しにくい形に変えてしまう可能性がある、ということでした。島村先生の場合、紅茶だけではなく、緑茶でも予防の可能性を研究し特許を取っています。ただ、厚生労働省やWHOレベルで推奨されるには、まだ時間がかかるかもしれません。
この紅茶やお茶のポイントは、完璧な予防かどうかは別として、「喉の湿度を保つ」ことは効果があるということです。喉の粘膜には、空気とともに吸い込んだウイルスなどの異物を排出する役割があります。ところが乾燥してしまうと、この機能が弱まってしまい、ウイルスが侵入してしまうのです。厚労省がすすめているのは、部屋の湿度を50〜60%に保つことですが、加湿器がない環境では、15分おきくらい、水分をこまめにとり、喉を乾燥させないように。せめて喉の湿度を保つことで、一定の予防になります。
★あとはビタミン
あとは抵抗力を落とさないこと。ビタミンCは、免疫細胞の白血球を活性化させ、細胞同士のつながりを強めます。また呼吸器からの感染を予防するにはビタミンDがいいと言われています。ビタミンDは日光に当たると体内で作られますが、日照時間の少ない冬は不足しやすいのでサケなどの魚類や、キノコ類を多く摂るようにしましょう。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫