2月18日(月)、「白血病」「悪性リンパ腫」「多発性骨髄腫」の「3大血液がん」について治療方法などを取り上げました。その中で、多発性骨髄腫の治療について免疫療法の承認が近づいている、という話をしましたが、その数日後、厚生労働省の専門部会は、白血病とリンパ腫の免疫治療薬の製造販売することを了承しました。
白血病とリンパ腫の治療薬として承認が出たということで、今、多発性骨髄腫で悩んでいる方にも希望が見えたのではないでしょうか。今後は、ほかのがんでもがん免疫療法として承認されることが期待されます。
そして今回のテーマは、その承認の際に、同時に承認されたもう1つの薬についてです。
報道では、白血病の話に多く注目が集まっていましたが、実はもう1つ、糖尿病などが原因で、最悪の場合、足が壊死する「重症下肢虚血」という病気の治療薬も、承認されていたんです。
2月25日(月)、松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、「重症下肢虚血」と、この最新の薬について取り上げました。
★重症下肢虚血とは?
患者数は国内に1万人から2万人いると言われています。糖尿病のほか、高血圧、高脂血症、高脂血症といった生活習慣病なども原因ですが、特に糖尿病との関係は深く、ある研究では、重症下肢虚血の患者さんの7割が糖尿病でした。
★どのような症状が起こるのか?
はじめは、普通の動脈硬化の症状から始まります。血管が詰まったり、細くなったりするため、しびれや足が冷たいと感じたり、少し歩くと足の筋肉に痛みが出る、という症状です。
しかし、糖尿病などの進行で悪化し、重症下肢虚血となると、横になって安静にしている時でも痛みが出てきます。そして最後には血液が足の先に届かず、足に潰瘍ができて、足が腐って壊死しまいます。そして最悪の場合には下肢の切断となります。
足に潰瘍や壊疽ができるような患者さんの5年生存できる率は50%程度といわれていて、胃がん、大腸がんなど多くのがんよりも生存率が悪い重篤な病気です。
★治療法は?
重症下肢虚血で潰瘍ができたり、壊疽したしする前であれば、通常の動脈硬化と同じで、カテーテルで血管を広げたり、カテーテルを使って血管の内側からレーザーを出して、血管の詰まりものを飛ばしたりします。
しかし、潰瘍ができて、壊疽が始まると治療は非常に困難で、足を切断となってしまいます。
現時点では、こうした重症下肢虚血については、現在「マゴットセラピー」というものがあります。
★マゴットセラピーとは?
これは2004年、日本医科大学附属病院の循環器内科で始まったものです。「マゴット」というのは、人間の死んだ肉を食べる虫で、その虫を紙パックなどに入れて、壊死した部分に置くことで、壊死した肉が取り除かれ、消毒され、新しい肉が再生されるという治療法です。虫で治療というと、えっ、と思うかもしれませんが、欧米では日本より早く始まっていて、日本はその後を追う形で始めたということです。
日本医科大学付属病院のこれまでの成績では、足を切断するしかない、と言われた患者さんの多くが、この治療法によって、歩けるようになった、と言われています。なかなか期待できる治療ですが、残念ながらこちらは「自由診療」となっています。
★保険適用の治療はないのか?
こうした中で、今回、国が承認する方針を決めたのが、バイオベンチャー企業のアンジェスが申請していた「コラテジェン」という薬です。この薬は「遺伝子治療薬」と言われる種類の薬で、この夏にも保険適用になるようです。
「コラテジェン」は、新たな血管を生み出すたんぱく質を作る遺伝子が主成分の薬です。患部に入れることで、血管を新しく作ることを促して新しい血管を生みだし、血流を回復させて、潰瘍などを改善します。つまり、遺伝子を使った再生医療です。
血管を作る遺伝子の働きは、大阪大学のチームが発見したものです。治療は、この「コラテジェン」を患部の筋肉8カ所に2~3回に分けて注射します。大阪大学医学部附属病院などで、患者24人に投与した結果、うち13人で潰瘍が治る効果を確認し、目立った副作用もなかったということなんです。
国の専門家会議は、今後、5年以内に有効性を検証することを条件に、承認する方針で、治療対象者は年間5000人~2万人と推定されています。
ただ、この「コラテジェン」が使える施設には条件があります。その条件は――。重症下肢虚血に十分な知識と治療経験のある医師がいる。さらに、複数の診療科で連携して治療に対応していることです。そして、厚生労働省によりますと、遺伝子治療薬が承認されるのは国内では初めてです。
★注目される遺伝子治療薬
遺伝子治療薬は、遺伝子を直接体内に入れて働かせることで、これまで治療法がなかった遺伝性の病気を治したりできます。また、病気の症状を緩和させたりできることから次世代の治療薬として注目されています。そんな遺伝子治療薬は、近年ではアメリカやヨーロッパなどで相次いで承認されていますが、日本は遅れを取っていました。
そんな中で、今回の「コラテジェン」については、海外では今年1月時点で、承認されている国はありません。今回、国が遺伝子治療薬を国内で初めて承認する方針ということで、今後、日本でも遺伝子治療薬の臨床応用が進むことが期待されます。

解説:医学ジャーナリスト松井宏夫