忙しい朝でもニュースがわかる「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ、月~金、6:30-8:30)8時からは、話題のアンテナ「日本全国8時です」。
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毎週木曜日は、東京大学名誉教授、月尾嘉男さんの「雑学コラム」!

解説は東大名誉教授の月尾嘉男
9月13日(木)は「バブル経済」
★リーマンショックから10年
今日は何の日ではなく、明後日9月15日は何の日、ということでこのテーマです。丁度10年前、2008年の9月15日は、リーマンショックが発生した日です。アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻し、世界全体に金融危機は波及する発端となった事件がリーマンショックでした。
この事件には伏線があり、前年にアメリカでサブプライム住宅ローン危機が発生しました。貸付の相手として返済能力が十分にある顧客をプライム層と言い、それ以下の層をサブプライム層というのですが、そのサブプライム層の人々が、住宅を購入する場合に資金を貸し付けていたのがサブプライム住宅ローンでした。
当初は住宅の価格が上がっていたので、このローンの評価は高く、問題はなかったのですが、2007年頃から住宅価格が下がり始め、サブプライム住宅ローン自体が不良債権になり始めただけではなく、この債権を抱き合わせた金融商品の価値も下がり始めました。
その結果リーマン・ブラザーズも多大な損失を抱え、ついに10年前の9月15日、連邦倒産法第11章により倒産処理手続きをすることを要請しました。これに対する連邦政府の対応が遅れたため、世界規模の金融危機になり、日本でも日経平均株価がリーマンショック直前の12214円からどんどん下がり、翌月には、一時、7000円を切るなど、半分近くに下落しました。
★元祖バブルは「チューリップバブル」
このような事件をバブル崩壊と言いますが、歴史上、何度も繰り返されています。世界最初のバブル経済事件と言われるのは、17世紀前半にオランダで発生した「チューリップバブル事件」です。
ちょうど来月公開の映画「チューリップ・フィーバー」でも題材になっているバブルです。
現在のオランダは花の生産では世界2位の大国ですが、とりわけチューリップの栽培で有名です。しかし、チューリップはオランダ原産ではなく、16世紀に原産地のオスマン帝国(トルコ)からヨーロッパにもたらされた花でした。最初は植物学者や貴族が趣味で栽培していただけですが、球根がウイルスに感染すると珍しい模様の花が咲くことに興味を持った市民が栽培するようになり、急速に普及しました。
17世紀前半のオランダの経済水準は世界最高であったことも影響し、珍しい模様のチューリップが高値で取引される投機対象になりました。その中でも最高の値段をつけられたのが「センペル・アウグストゥス」という白地に赤色の縞模様の入ったチューリップで、1624年には、その球根1個が、当時の労働者の年間賃金の3倍から6倍で取引されるようになりました。
現在の日本に当てはめてみれば、球根1個が、1000万円から2000万円ということになります。
さらに取引が過熱して、実物の球根がないまま空売りが普通になり、1637年には球根1個で、現在の価格で4千万円を突破し、アムステルダムの豪華マンションの値段に匹敵するまでになりました。
そしてついに1637年2月5日に崩壊し、3000人以上の人が破産、自殺する人も登場して終了しました。
★「南海泡沫事件=サウスシー・バブル」
今度は株です。歴史的に有名なバブル、「南海泡沫事件(サウスシー・バブル)」を紹介したいと思います。
17世紀の最後から18世紀の初期にかけて、イギリスは9年戦争、スペイン継承戦争、アン女王戦争などを戦い、財政が逼迫していました。そこで1711年に財務大臣ロバート・ハーレーが南海会社を設立し、その会社でイギリス国債の一部を引き受け、その見返りに、南米大陸のスペイン植民地との貿易の独占権や、南米大陸への奴隷販売の独占権を獲得しました。
しかし、会社が経営困難になったため、イギリス国債の額面分を、自社株の時価で交換する仕組みを作りました。これは複雑な仕組みなのですが、交換すればするほど、株が値上がりする仕組みにしたというわけです。
戦争の時代が終わって泰平の時代になっていたイギリス国民は、株があがるとにらみ、次々に南海会社に投資し、その結果、貿易は不振であったにもかかわらず、1720年1月に100ポンド程度であった株は5月に700ポンド、6月に1050ポンドと、半年で10倍以上になりますが、一気に破綻し、やはり多数の破産者や自殺者が出て幕を閉じました。
★繰り返されるバブル
ヨーロッパからアメリカに資金が大量に移動して、1929年10月にニューヨーク証券取引所から発生した「ウォール街大暴落事件」、1990年代中頃のタイでの不動産バブルが破綻して発生した「アジア通貨危機」など、世界では繰り返しバブル崩壊が発生しています。
★日本では「ウサギバブル」
ただ、日本も、結構昔からバブル崩壊が起きていました。古くは明治初期、輸入された愛玩用のウサギが人気になって、ウサギのオークションが実施されて値段が高騰した「ウサギバブル事件」が起きます。
ウサギ1羽が明治初期の小学校教員の月給の10倍以上の値段になりましたが、これもあっという間に崩壊して、人間だけでなく、飼育されたウサギも犠牲になりました。
日本では、その後、第一次世界大戦で好景気になった1910年代後半の「大正バブル」などがありますが、現在話題になっているスルガ銀行の主導した「カボチャの馬車」も同様です。
★「カトの手紙」を教訓に
チューリップの球根1個が4千万円するとか、豪華アパート1軒と同じ値段になるということは冷静になってみれば、ありえないということが分かります。ウサギ1羽が小学校教員の月給の10倍以上というのも、冷静になってみればおかしいことはわかるはずです。それでも時々、バブル事件が発生するのは、残念ながら人間に欲望があるという理由しか思い当たりません。
18世紀前半にイギリスで発刊された「カトの手紙」という文章があります。カトとは古代ローマの高潔な性格で知られた政治家、マルクス・ポルキウス・カト・ウティケンシスの名前で、その名前を使って南海泡沫事件を戒めた文章がありますので、それを最後に紹介したいと思います。
- 「人間の愚かさには限りがない。
それでなければ同じ落とし穴に1000回も落ちるわけがない。
過去の失敗を覚えていても、またしても失敗を繰り返すことになる」
リーマンショックから10年目の時期に、過去の失敗を噛みしめる必要があると思います。