耳の中の炎症によって、音が聞こえづらくなる慢性中耳炎や、耳の組織が硬くなることで難聴、耳鳴り、めまいなどを起こす病気など、耳の病気にもいろんな種類があります。これまで、こうした耳の鼓膜の内側の病気は、耳の後ろを切開し、骨に穴を開ける手術が行われてきました。ただ、近年は、内視鏡を使った手術が増えてきています。さらに、最近では、穴の開いた鼓膜を再生する新しい手法にも内視鏡が使われ始めるなど身体にやさしい内視鏡が活躍の場を広げています。
1月20日(月)松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、内視鏡による耳の手術などについて取り上げました。
★中耳炎とは?
その中で、大きな問題になる病気に、難聴の引き金となる中耳炎があります。そして、慢性中耳炎の中で、特に注意が必要なのが鼓膜付近に炎症が起きて、周辺の骨を溶かして真珠のような塊ができる中耳真珠腫という病気です。
まず、中耳炎というと、子供の病気という印象が強い方も多いかと思います。しかし、実際には子供に限らず中高年にも多く見られるなど、年齢を問わずに発症しています。その中耳炎とは、耳の鼓膜などがある中耳と呼ばれる場所に細菌やウイルスが感染して、炎症が起こる病気です。
風邪をひいたときなどに、鼻やのどの炎症が起こります。それに続いて起こることが多いものが急性中耳炎です。急性中耳炎の症状は、ズキズキする激しい耳の痛みや発熱、加えて、耳の中から膿が流れてくる耳だれです。中耳に腫れや膿が起こると、音の伝わりが悪くなります。そのため、耳が詰まった感じがすることがあるのです。
この場合は抗菌薬を5日間きちんと服用して炎症を抑えます。途中で状態が良くなったからといって、勝手に服用を中止してはいけません。この、急性中耳炎を繰り返すうちに炎症が慢性化すると慢性中耳炎と呼ばれます。
慢性中耳炎になると、耳だれが増え、鼓膜が破れやすくなったり、聞こえが悪くなったりする。進行すると、鼓膜に伝わった振動を内耳に伝える働きをする耳小骨という部分が破壊されたり、三半規管や聴覚の神経にも炎症が及んだりします。そのため、めまいや耳鳴りなどの症状も。また、慢性中耳炎の中でも、とりわけ注意が必要なのが、鼓膜の一部が中耳に入り込んで塊を作ってしまう、真珠腫という病気です。
★真珠腫とは?
真珠腫とは、真珠のような腫瘍に見えるということで、真珠腫といいます。真珠腫が細菌に感染すると大きくなり、耳小骨や内耳の骨が破壊され、難聴が進行します。さらに、真珠腫が大きくなって顔面神経にまで炎症が広がると顔面神経麻痺を起こすこともある。また真珠腫は頭蓋内にまで及ぶこともあります。そうなると、骨髄炎や脳炎などを起こして命にかかわることもあります。そのため、治療は、真珠腫を取り除くために手術をする必要があります。
★現在でも行われている耳の病気の手術とは?
現在でも一般的に行われる手術として、顕微鏡で耳の中を見ながら行われる手術です。しかし耳の穴は狭く、耳の中には凹凸があるので、顕微鏡で手術を行うと陰になって見えない部分が多くあります。そのため顕微鏡で奥までよく見えるようにするために、これまでは耳の後ろを切開して、耳の後ろの骨をドリルで削って、より見える範囲を広くしていました。
★内視鏡を使った耳の病気の手術とは?
そうした中で、近年広がってきているのが、内視鏡を使った手術です。直径2・7ミリの内視鏡と手術器具を耳の穴の中に入れて、モニターに映し出された拡大画像を見ながら、手術を進めます。
さらに顕微鏡の手術では、耳の後ろを切る必要がありましたが、耳の後ろから広い範囲を削ることになるので、骨や粘膜が犠牲になります。しかし、内視鏡の手術では耳の後ろを切る必要がないので、まさに体に優しい手術です。全身麻酔で行いますが、手術の後の痛みも少なく手術をすることができます。
内視鏡ならではの利点のひとつに、視野を変えられることがあります。顕微鏡を使った手術では死角になってしまう部分も、内視鏡では接近して拡大してみることができるので、簡単に見ることができます。見えづらい場所も細かく観察できることで、病変の取り残しも減ります。
★内視鏡を使った鼓膜の手術とは
さらに、慢性中耳炎が進行して、鼓膜に穴が開いた場合は、穴をふさぐ手術を行う必要があるのですが、そこでも内視鏡が活躍します。鼓膜は再生能力が高く、自然に塞がることもあります。
ただ、塞がらない場合は、これまでは耳の後ろを切開してとり出した筋肉の一部を小さくして鼓膜に貼っていました。ただ、耳の外に傷痕が残り、鼓膜部分には厚い小さく貼った筋肉の一部が残って、聴力が十分に回復できませんでした。加えて、鼓膜の薄い部分が、鼻をかむなどしたときに破れることもありました。
こうした中で、内視鏡が広く使われることになってきたため、直接鼓膜の穴をふさぐことができるようになりました。具体的には、ゼラチンでできたスポンジに鼓膜の再生を促す薬をしみこませて、鼓膜部分を塞ぐ方法です。内視鏡で見ながらスポンジを鼓膜の穴につめ、医療用ののりで固める。スポンジのなかで鼓膜の細胞が成長し、3週間ほどで鼓膜は再生して元に戻ります。聴力は、もちろん回復、特に人の声の周波数を聞き取る力が回復します。
★広がる内視鏡の活用
お腹は腹腔鏡、胸は胸腔鏡手術。消化管の中であれば、食道・胃・小腸・大腸は内視鏡治療。そして、耳の内視鏡を使った手術です。どれも体に優しい手術です。
今回の耳の内視鏡を使った手術は、今日では耳の手術を行うおよそ70%の医療機関で行われています。その主な病院を紹介しておきます。この開発を行った山形大学病院、東京大学病院、慈恵会医科大学病院、慶応大学病院、大阪の北野病院、高知大学病院などです。