抗がん剤の治療に伴って、さまざまな副作用があります。なかでもつらい副作用の1つが髪の毛などの毛が抜けてしまう脱毛です。この脱毛があるため、抗がん剤治療をためらったりする患者さんも少なくありません。そんな脱毛を抑制する動きが、始まっています。
1月27日(月)松井宏夫の「日本全国8時です」(TBSラジオ、月曜あさ8時~)で、抗がん剤の副作用と、脱毛を抑制する装置について取り上げました。
★抗がん剤の副作用とは?
まず、抗がん剤の副作用についてです。少し古いですが、2009年に国立がん研究センター中央病院が、抗がん剤の治療を受けている患者さん638人を対象に「抗がん剤による副作用苦痛度ランキング」アンケート調査を実施。それによると、吐き気、しびれ、全身の痛み、だるさ、などが上位にきていますが、特に女性に限ると、1位は頭髪の脱毛だったんです。
また2015年に乳がんの方を対象にした別の調査でも、脱毛が抗がん剤治療中の苦痛の1位で、苦痛だったと答えた人は90%を超えています。
そんな脱毛ですが、そもそもなぜ抗がん剤の副作用で脱毛が起こるのか。抗がん剤は、分裂が活発な細胞に強く影響します。からだにはいろんな細胞がありますが、その中で毛を作る基になる細胞は、細胞分裂が非常に活発なため、抗がん剤の影響を受けやすく、その結果、脱毛が起こります。
★抗がん剤ですべての髪の毛が抜ける?
抗がん剤の治療を行うと、必ずすべての髪の毛が抜けてしまうと思っている方も多いかもしれませんが、必ずしもすべて抜けてしまうわけではありません。脱毛は、抗がん剤の投与を始めてから2週間から3週間で毛が抜け始めます。症状が出始めてから、1ヵ月程度かけて脱毛が進行します。
ただ脱毛が起こる抗がん剤、起こりにくい抗がん剤がありますし、同じ抗がん剤でも脱毛・発育の程度やスピードには個人差があります。また抗がん剤の副作用は一時的なものなので、治療が終わって半年くらい、早い人では2か月から4か月くらい経つと、また生えてきます。
とはいえ、髪質が変化することも多いですし、ショートくらいの長さに回復するには半年から1年程度かかります。また、こちらも個人差があって、抗がん剤治療を終えた人のうち6割の人が2年で80%以上回復しますが、およそ5%の患者さんは、5年が経過しても30%以下の回復だったという報告もあります。
★つらい脱毛とこれまでの対策
患者さんにとってはとてもショックなことです。・乳がん患者さんでは、脱毛したくないという思いから、8%の人が治療効果の低い抗がん剤を選択している、という報告もあります。この8%の患者さんにとっては、治療の効果以上に脱毛を逃れることが優先されるほど重要なこととなっています。これは命以上の優先度ともいえます。
こうしたことを受け、病院などでは、脱毛する前から心理的ショックを和らげる案内が提案されるケースも出てきています。例えば、事前に髪の毛を短くしておく、ということです。特に長い髪の毛がバサッと大量に抜けると、抜けたことによる精神的ストレスが強い上に、洗髪時に抜けた髪がもつれて絡まってほぐれなくなってしまうことがあります。また、男性は事前に髪の毛を剃ることで、イライラを防いでいるという声も多く聞きます。
一方、脱毛のケアとして代表的なものにウィッグがあります。ウィッグも最近はバリエーションが多く出てきていて、化学繊維などで人工的に作られる人工毛からヒトの髪を100%使った人毛、人工毛と人毛を合わせて作るもの、既製品やセミオーダー、フルオーダーなどで様々出ています。
こうした中で、出てきたのが、脱毛を抑制する装置です。
★脱毛を抑制する装置が誕生
装置の名前は「パックスマン・スカルプ・クーリング・システム」で、イギリスの会社が開発したものです。去年の3月に、日本国内で初めて医療機器として承認されて、9月から、順次、医療機関に導入されています。抗がん剤による治療中と、その前後に頭皮を冷却させることで脱毛を抑制させる医療機器です。
対象の患者さんは、固形がんと呼ばれるがんを患った患者さんです。固形がんというのは、臓器や組織などで塊をつくるがんのことで、胃がん、肺がん、子宮がん、乳がん、大腸がん、肝がんのほかに、筋肉や骨にできるがんも含む。つまり、白血病などの血液のがん以外のがんが対象になるということです。
★どうやって使うのか?
抗がん剤を使う患者さんは専用のキャップをかぶります。抗がん剤を投与する30分前から、抗がん剤投与が終わって、その後90分以上までキャップにマイナス4度ほどの冷却液を流して、頭皮を冷やします。
なぜ脱毛を抑えられるのか、その仕組みですが、脱毛は先ほども少しお話したように、細胞分裂が非常に活発な頭皮の細胞にダメージを与えることによって起こります。頭皮を冷却して血流を抑えることにより、抗がん剤が髪の毛を作る場所にあまり届かないようになるのです。すると、毛母細胞に与えるダメージを軽減させて、結果的に脱毛を抑えることが可能になります。
★効果は?
日本における治験では、本製品を使用した患者さんのおよそ3割は、結果として、医療用ウィッグが不要であると医師が判定しました。これまで対策がなかった3割の方をすくった形です。
今後は、さらに研究を進めていくことで7割、8割と有効性をアップしていくことに期待したいです。
もう1つ望まれるのは、保険適応です。脱毛を恐れる余り、抗がん剤治療を避けようとする人がいることを考えると、こうしたものも保険適用にして助けたいものです。
特に女性患者さんの生活の質を悪くする脱毛です。やっと医療が注目し始めたのです。 患者さんに寄り添うという意味から、副作用の頭髪の脱毛について、もっと時間をかけて説明をするべきと思います。